重イオン核融合(Heavy ion fusion)は、核融合・プラズマ物理学の手法。重イオンビームを慣性核融合ターゲットに照射し、輻射輸送を介して燃料ペレットを爆縮・点火する方式である。誘導加速器やシンクロトロンによる高効率・高繰り返し運転が可能で、発電用駆動源の有力候補とされる。ビームの空間電荷中和や最終収束、放射コンバーターの設計が主要な研究課題である。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは31本ある。比重が最も大きかったのは1995–1999年で、その期間の論文の0.34%を占めた。直近の2025–2029年では0.00%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1980年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
重イオン核融合(heavy ion fusion)とは、鉛やビスマスのような重い原子核を数GeVまで加速した強力なイオンビームをドライバ(駆動源)として用い、高密度に圧縮した核融合燃料標的を照射して点火させる、慣性核融合の一方式である。レーザー光の代わりに加速器で作ったイオンビームで燃料ペレットを爆縮する点が最大の特徴で、発電所としての実用化をにらんだ慣性核融合の有力候補として、アメリカ、欧州、ロシア、日本で研究が続けられてきた。
概念と動機
慣性核融合では、重水素と三重水素を凍結させた数mm大のカプセル(標的)を一瞬で加熱・圧縮し、燃料の慣性が効いているわずかな時間内に核融合反応を起こさせて、投入エネルギーに対する倍率(ゲイン)を稼ぐ。レーザー核融合が点火実験を主眼とするのに対し、重イオン核融合は当初から発電プラントを想定しており、その動機の中心は経済性にある。
加速器がドライバとして適する理由は三つある。第一に効率が高いことである。加速器の壁プラグ効率は原理的に高く、レーザーの数%という効率と比べて桁違いに有利で、発電所が成立するにはドライバ効率と標的ゲインの積が十分でなければならないため、これは決定的な利点になる。第二に繰り返し運転に向くことである。発電所では毎秒数発のペースで標的を照射し続ける必要があるが、加速器はもともと連続・高繰り返しで粒子を加速する装置であり、長寿命で信頼性が高い。第三に、イオンビームのエネルギー沈着の仕方が標的設計に都合がよいことである。重イオンの物質中での阻止能はイオンの電荷の二乗に比例して大きく、物質の表面近くではなくある深さにエネルギーを効率よく沈める。この性質は、後述する間接駆動の放射器(ホールラウム)を均一に加熱するのに適している。
一方で課題も明確である。既存の加速器は核融合ドライバとして設計されたものではなく、標的を点火させられるほどの強度のビームを作れるかは実証されてこなかった。標的を駆動するには数MJのビームエネルギーを数ナノ秒のパルスで数mmの焦点に集中させる必要があり、これは通常の加速器ビームより桁違いに高い空間電荷を持つビームを扱うことを意味する。重イオン核融合研究の中心課題は、加速器の持つ効率・繰り返し・信頼性の利点を保ったまま、このような強度のビームを実現できるという物理を確立することにある。
加速器ドライバ
ドライバの要求を満たすため、二つの系統的な加速器方式が検討されてきた。一つは高周波リニアックで加速したイオンを蓄積リング(アキュムレータリング)に複数本貯めて急速圧縮し、一括して取り出す方式で、欧州やロシア、日本で主に検討されてきた。GSI(独ダルムシュタット)やITEP(露モスクワ)の新世代重イオン施設は、大型シンクロトロンと大電流蓄積リングを組み合わせる構想を軸に、高密度プラズマ物理と慣性核融合の研究基盤として位置づけられた。もう一つは誘導リニアック(induction linac)方式で、アメリカで主に研究された。こちらはパルス変圧器のような誘導加速ギャップを直列に並べて長いパルス状のビームを加速しながら電流を増幅していく方式で、蓄積リングを介さずに大電流化できる可能性を追求したものである。
いずれの方式でも本質的な制約は空間電荷である。低エネルギー段ではビーム内の同種電荷による反発力が外部の集束磁場を上回る「空間電荷支配」の状態にあり、ビームを素通しで増流することはできない。このため、低電流のイオン源から出発して、加速に伴う相対論的剛性の増大を利用しながら電流を増やし、多数のビーム列を並行して運ぶことで全体として必要な電力を確保する、という設計思想が共通する。イオン源側でも、大電流を安定して取り出すための多重アーク放電型イオン源、高い電荷状態の重イオンを直接作る源、空間電荷を減らすために負イオンを使い後に電子を剥ぎ取る構想など、多様な技術開発が行われてきた。
ビーム輸送と終段集束
加速器から出たビームは、炉室の壁を突き通して標的まで届かなければならない。この区間の物理は「チャンバ輸送」と呼ばれ、ドライバの要求を緩め、発電コストを下げる上で最もレバレッジの大きい領域の一つとされてきた。炉室内のガス密度によって、検討されてきた輸送方式は大きく二つに分かれる。
炉内を約0.003トル未満の低圧に保つ場合は、ビームはほぼ弾道的(バリスティック)に飛行する。ただし残留ガスとの衝突でイオンの電子が剥がれるストリッピングが起きると電荷が増えて自己反発が強まるため、ビームを部分的に中性化して空間電荷を打ち消す手法が研究された。ビームが持つ電子を意図的に剥がして中性化を進める自己中性化(オートニュートラリゼーション)の研究もこの文脈のものである。
炉内を約0.1トル以上の高圧に保つ場合は、ビームを炉の外で集束した後、細い半径(約2mm)のまま炉内を輸送する二つの方式が検討されてきた。一つはピンチ輸送で、炉内ガスをビーム自身で電離して作るプラズマチャネルの電流が生む磁場でビームを自ら絞り込みながら進ませる。もう一つはチャネル輸送で、レーザーなどであらかじめ作った導電性チャネルの中をビームを通す。いずれも炉内でビームを細径に保てるため、加速器が用意すべきビーム品質(焦点の小ささやエネルギー分散)への要求が緩み、ドライバの小型化と発電コスト低減につながる可能性がある。剥ぎ取りを前提としたピンチ輸送の解析や、終段集束系の縮小模型実験による結像特性の検証などが進められた。
終段集束(final focus)自体も難所である。数mmの焦点を作るには長い飛行距離を持つ強い集束レンズ系が必要で、ビームのエネルギー分散による色収差が焦点サイズの下限を決める。このため焦点実験では、縮小模型で色収差と空間電荷の効果を分離して検証する手法が取られた。また、集束用の大電流パルス磁石(パルスレンズ)の開発も進められた。
標的
重イオンビームは物質中でエネルギーを深く沈める性質を持つため、標的設計は間接駆動、すなわちビームで高Z物質のカプセル(ホールラウム)を加熱し、そこから出るX線で燃料カプセルを爆縮する方式が主流である。ビームはホールラウム内の放射器に当てられ、X線変換層として機能する。放射変換物理の研究は、標的ゲインの上限を見積もる手法の基礎にもなっている。
標的設計の歴史では、放射器をホールラウム内に分散配置してX線を均一化する「分散放射器標的」から、より単純な「ハイブリッド標的」へと重心が移った。ハイブリッド標的ではビーム焦点半径を約2mmから約5mmへと大きくできる。焦点が大きくなれば加速器側の要求(集束性能、ビーム品質)が緩和されドライバが安価になるが、代わりにX線の照射均一性をビーム配置だけでなく標的側の工夫で確保するという新しい課題が生じる。そのために導入されたのが、過剰な放射を遮る薄い物質層「シム(shim)」と、X線の漏れ込みを防ぐ「シャインシールド」である。シムはカプセル表面近くに置く薄層で、局所的な放射の過剰をわずかに遮ることで均一性を補正する。この概念はZピンチによる両端開放型ホールラウムを用いた実験で検証され、シムによって球面調和関数のP2成分の非対称性の符号を反転させ、P4成分を大幅に縮小できることが示された。この手法は重イオン標的固有のものではなく、間接駆動全般に適用できる。
間接駆動の中心設計のほかに、加熱と圧縮を分離する高速点火を重イオンで実現する構想も研究されてきた。こちらは圧縮用のビームとは別に、短パルスの重イオンビームを圧縮されたコアに直接打ち込むもので、必要なビームエネルギーを抑えられる可能性がある。また、磁場で閉じ込めた重水素標的を用いる構想や、両側から照射する二次元設計の検討など、ゲインを高くかつ頑健にするための標的物理が幅広く調べられてきた。
炉室と計画の現状
発電所を構成する最後の要素は、毎秒数発の爆縮に耐える炉室である。標的爆縮で生じる微細爆発(マイクロエクスプロージョン)の流体挙動は、濡れ壁(液体金属で覆った第一壁)を持つ炉室について数値シミュレーションで研究されてきた。濡れ壁はX線やイオンの直撃から構造材を守り、炉室の寿命を延ばす方策である。爆縮で放出されるエネルギーをどう回収するか、特に高速点火標的を用いる炉室でのエネルギー変換の設計も研究課題であり、炉室のガス密度の選択は前節の輸送方式の選択と直結する。つまり低圧炉室はバリスティック輸送と組み合わさり、高圧炉室はピンチ・チャネル輸送と組み合わさることで、ドライバ・輸送・炉室が一体のシステムとして最適化される。
研究の進め方としては、各国の活動は理論・数値シミュレーションと小規模実験を組み合わせる形が主流となった。アメリカでは、かつて強度ビームの物理を実証するための縮小ドライバILSEの建設が計画されていたが、核融合研究予算の縮小により断念され、計画は多数の小型実験(イオン源、入射、ビーム合流、再循環加速、集束)と、加速器全体を端から端まで正確に再現する「エンドツーエンド」シミュレーションの展開に再編された。この再編の方針は、実験とシミュレーションの突き合わせによって強度ビームの科学を確立し、コスト低減と効率向上のための基盤技術を育てた上で、次段の大型加速実験に進むというものである。国際的には、極限状態の物質科学、重イオンビームとプラズマの相互作用、大電流蓄積リングの物理といった共通基盤の研究が国際協力の下で進められており、重イオン核融合は「豊富で、安全で、環境にやさしく、経済的な」エネルギー源を目指す長期研究として位置づけられている。点火を自前のドライバで実証する段階には至っておらず、標的物理・強度ビーム物理・炉工学の三つを繋ぐ統合実証が、この分野に残された中心的課題である。
この解説が根拠にした論文から
- Status of heavy ion fusionPlasma Physics and Controlled Fusion 2001
- Advances in target design for heavy ion fusionPlasma Physics and Controlled Fusion 2005
- The US heavy ion fusion programFusion Engineering and Design 1996
- Chamber propagation physics for heavy ion fusionFusion Engineering and Design 1996
- Status of the US heavy ion fusion programFusion Engineering and Design 1999
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推移
研究の変遷
1970–19841本 · 0.04%
展望の時代
この時代の論文は1本のみであり、コーパス全体に占める割合は0.04%である。1984年の「Status and perspectives of Heavy Ion Fusion」が唯一のもので、重イオン核融合の現状と展望を論じている。他の主題や装置との共起は見られない。
この時代の論文から
- Status and perspectives of Heavy Ion FusionPlasma Physics and Controlled Fusion 1984
1985–19944本 · 0.07%
標的プラズマとイオン源の研究
この時代は4本で、割合は0.07%である。Fusion targetと共起し、重イオン核融合標的のコロナプラズマ不安定性、放射変換器物理、利得上限の導出など標的物理が中心となっている。また、多重アークイオン源の研究や1986年の国際シンポジウム報告も現れる。
同時に語られた主題核融合ターゲット
この時代の論文から
- Radiation converter physics and a method for obtaining the upper limit for gain in heavy ion fusionNuclear Fusion 1994
- Corona plasma instabilities in heavy ion fusion targetsNuclear Fusion 1991
- Heavy Ion Fusion (Report on the International Symposium, Washington, D.C., 27–29 May 1986).Nuclear Fusion 1986
- Multiple arc ion sources for heavy ion fusionReview of Scientific Instruments 1990
1995–200421本 · 0.21%
輻射駆動標的とビーム物理の展開
この時代は21本で、割合は0.21%と全時代の中で最大である。Negative ion、Ion beams、Heavy ion beam、Deuterium、Argonなどと共起し、輻射駆動標的の構築や二次元シミュレーション、空間電荷支配ビームの自動中和といったテーマが扱われた。さらに「Al Maschke and heavy ion fusion」により歴史的な人物との関連する論文も現れ、2001年には「Status of heavy ion fusion」がまとめられている。
同時に語られた主題負イオン、イオンビーム、重イオンビーム、重水素、アルゴン
この時代の論文から
- Configurations of radiation driven targets for heavy ion fusionNuclear Fusion 1995
- Autoneutralization of space charge dominated beams for heavy ion fusionNuclear Fusion 1996
- Two dimensional simulations of a radiation driven target with two sided illumination for heavy ion fusionNuclear Fusion 1998
- Status of heavy ion fusionPlasma Physics and Controlled Fusion 2001
2005–20144本 · 0.03%
高速点火と高利得標的設計
この時代は4本で、割合は0.03%と減少している。Ignitionと共起し、高速点火重イオン核融合の反応容器内エネルギー変換、標的設計の進展、高利得で頑健な標的設計への取り組みが論じられた。また、「Overview of US heavy ion fusion research」によって米国の研究動向が概観されている。
同時に語られた主題点火
この時代の論文から
- Overview of US heavy ion fusion researchNuclear Fusion 2005
- Energy conversion in a reactor chamber for fast ignition heavy ion fusionNuclear Fusion 2005
- Advances in target design for heavy ion fusionPlasma Physics and Controlled Fusion 2005
- Progress towards a high-gain and robust target design for heavy ion fusionPhysics of Plasmas 2012
2015–20261本 · 0.00%
ウェット第一壁と微爆発シミュレーション
この時代は1本のみで、割合は0.0%にまで低下している。First wallと共起し、ウェット第一壁を備えた重イオン核融合反応容器内の微爆発流体力学のシミュレーションが扱われた。この主題は細々とではあるが、なお継続している。
同時に語られた主題第一壁
この時代の論文から
- Simulation of microexplosion hydrodynamics in heavy ion fusion reactor chamber with wetted first wallFusion Engineering and Design 2016
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文22本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、5本の論文(うち全文0本)と0枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
