Iモード(I-mode、I mode)は、核融合・プラズマ物理学の現象。トカマクの周辺に温度ペデスタルを形成しつつ密度はLモードのまま維持する閉じ込め状態。エネルギー閉じ込めはHモード並みだが粒子・不純物輸送はLモード並みで、ELMを伴わない。固有の弱相関モード(WCM)が粒子輸送を担う。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは54本ある。比重が最も大きかったのは2020–2024年で、その期間の論文の0.22%を占めた。直近の2025–2029年では0.21%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1995年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
Improved confinement regime
解説
Iモード(Improved mode、改善閉じ込めモード)は、トカマクプラズマの閉じ込め改善状態の一つで、エッジ(プラズマ外周部)に温度の壁(ペデスタル)が形成されてエネルギー閉じ込めがHモード並みに向上する一方、密度や不純物の輸送はLモード(低閉じ込めモード)のままであるという、特異な輸送分離を特徴とする。通常のHモードへの遷移(L–H遷移)が起こりにくい条件下、すなわちイオンの B×∇B ドリフトがアクティブなX点から遠ざかる「不利なドリフト配置」で高加熱出力を入力したときに現れる。この配置ではL–H遷移の出力しきい値が高くなるため、Hモードに至らない中間の出力帯にIモードの運転窓が開く。エネルギー閉じ込めと粒子・不純物閉じ込めが独立に振る舞うこの性質は、Hモードで問題となるELM(エッジ局在モード)の回避と不純物蓄積の抑制を同時に実現しうることから、将来の炉用運転シナリオの候補の一つとされている。
Iモードの断面像を最もよく示すのは、エッジの密度・電子温度・イオン温度分布である。図はペレット入射で燃料供給したIモード放電と、ガス燃料供給のIモード放電の分布を並べて示したもので、密度は外周でLモード的に緩やかに減衰するのに対し、電子温度はペデスタルを持ち、中心部で大きく立ち上がっている様子が読み取れる。

fig.4 Pellet-fueled I-mode plasmas in ASDEX Upgrade (2023) · CC BY 4.0
Electron density (a), electron temperature (b) and ion temperature (c) profiles in the pellet-fueled phase (5.85 s \lt t\lt 6.05 s—orange) and gas-fueled phase (3.20 s \lt t\lt3.50 s—blue) of the I-mode discharge \#38 684. Circles represent ECE and CXRS data, squares TS data, while solid lines are the profile fits from IDA averaged over the time window
定義と物理的性質
Iモードは、LモードでもHモードでもない第三の閉じ込め状態として位置づけられる。その本質は「エネルギー輸送と粒子輸送の分離」である。Hモードではエッジに温度と密度の両方のペデスタルが形成され、それに伴って不純物がコアに蓄積し、ELMと呼ばれる周期的な爆発的不安定がペデスタルを解放する。Iモードでは温度ペデスタルのみが形成され、密度分布はLモードのままである。その結果、エネルギー閉じ込め時間はHモードに近い水準(正規化閉じ込め係数 H98 が1を超えることもある)に達する一方、粒子・不純物の閉じ込め時間はLモードとほぼ変わらない。レーザーブローオフによる不純物注入実験では、Iモードのコア不純物閉じ込め時間がLモードとほぼ同一であることが確認されており、これが高Z金属壁を持ち高周波加熱で運転される装置での不純物放射低減に直結している。
この分離がなぜ起こるかについては、分離帯(セパラトリックス)近傍の乱流が鍵を握ると考えられている。低衝突周波数条件下ではセパラトリックス近くでイオン温度が電子温度を上回りうるが、このときイオン温度勾配駆動型(ITG)乱流が分離帯近傍で抑制され、エッジの熱輸送だけが減る、という描像が流体・ジャイロキネティックシミュレーションによって示されている。一方で粒子輸送を担う乱流チャネルは温存され、これが密度分布をLモード状に保つ。このモデルは、エネルギー・粒子輸送の分離、前駆波を伴う間欠的な乱流バースト、磁場強度とともに運転窓が広がること、そしてプラズマをデタッチ(分離)させにくいことなど、実験で観測されるIモードの諸性質を一括して再現する。
ペデスタルの安定性の面でも、IモードはHモードと異なる。Iモードのペデスタルは理想的なピーリング・バルーニング安定性限界から十分離れており、タイプI ELMがほとんど観測されない。それでいて温度ペデスタルは定常的に維持され、Hモード(EDA Hモード)では達成が難しい高いエッジ温度と低衝突性の領域まで運転空間が拡大される。
アクセスとL–I遷移
Iモードへの遷移(L–I遷移)は、L–H遷移の出力しきい値が高い条件下、すなわち不利なドリフト配置で起こる。この配置はL–H遷移しきい値を押し上げるため、Hモードに達しない出力帯がIモードの運転窓として残る。L–I遷移に必要な出力は密度に対してオフセット線形的な依存性を示すが、L–H遷移しきい値と異なり磁場強度への依存は弱い。遷移の主な判定基準はエッジ温度ペデスタルの形成であり、密度分布は遷移前後でほとんど変化しない。
遷移を支配するのはエッジの圧力勾配であり、電子加熱とイオン加熱を比較した実験からは、イオンチャネルの役割が重要であることが示唆されている。これは前述のITG乱流抑制の描像と整合する。外部から印加した磁場摂動がエッジ圧力分布を平坦化すると、同じ加熱出力でも必要な圧力勾配に達せず、L–I遷移しきい値が上昇することも確認されている。
L–I遷移後、Iモードはしばしば数閉じ込め時間をかけて徐々に発達し、最終的にHモードへ遷移する。この漸進的な過程は、輸送低減とペデスタル形成の因果関係を調べる格好の実験系を提供する。IモードはAlcator C-Mod、ASDEX Upgrade、DIII-D、EAST、KSTAR、HL-2Aなど複数の装置で、水素・重水素・ヘリウムといった異なる燃料種、広いエッジ安全係数・三角形状・ペデスタル衝突性の範囲で達成されており、加熱法(中性粒子入射、電子サイクロトロン加熱、高周波加熱)への依存性もほとんど見られない。
ペデスタル構造と熱・粒子輸送の分離
Iモードのエッジでは、温度の規格化勾配がHモード並みに大きくなる一方、密度の規格化勾配はLモード並みに小さいまま保たれる。この分離は、異なる燃料供給法を用いても保たれる。図は、Lモード・ガス燃料Iモード・ペレット燃料Iモード・Hモードのエッジ規格化勾配を温度と密度の平面にプロットしたもので、Iモード(ペレット燃料を含む)が温度勾配軸ではHモードと重なり、密度勾配軸ではLモード側に留まるという、この状態の本質を一枚に示している。

fig.7 Pellet-fueled I-mode plasmas in ASDEX Upgrade (2023) · CC BY 4.0
Electron temperature vs electron density maximum edge normalized gradient for L-mode (purple pentagons), gas-fueled I-mode (gray circles), pellet-fueled I-mode (orange squares) and H-mode (blue triangles). Pellet-fueled I-mode plasmas exhibit L-mode-like edge density normalized gradients and H-mode-like edge temperature normalized gradients, as do gas-fueled I-mode plasmas.
温度ペデスタルが形成されても密度ペデスタルが形成しない理由は、エッジ乱流の性質の変化によって説明される。エネルギー輸送を担う乱流(主としてITG)が分離帯近傍で抑制される一方、粒子輸送を担う乱流は温存されるか、むしろ後述の弱相干モードによって強化される。このため、Iモードでは密度をガスパフやペレット入射で比較的自由に制御でき、不純物もコアに蓄積せず排出される。不純物排出の機構としては、新古典輸送だけでもIモードの不純物除去を説明するのに十分とする解析もある。一方、ジャイロキネティックシミュレーションや非線形検証では、LモードからIモードへの遷移に伴う乱流構造の変化が輸送分離の起源であるとする見方が有力であるが、その詳細についてはなお議論が続いている。
弱相干モードとエッジ乱流
Iモードのエッジ乱流には、Lモードにはない顕著な変化が現れる。低周波側の密度・温度変動が減少する一方、周波数スペクトルの中間周波数域(装置によって概ね50–300 kHz)に幅広いピークが現れる。これが弱相干モード(Weakly Coherent Mode、WCM)であり、Iモードのマーカーとみなされ、エッジの粒子輸送を強化していると考えられている。図は、ドップラーバック散乱計測で得られた変動パワースペクトルにWCMのピークをフィッティングしたもので、背景となる広帯域スペクトルの上に、周波数約75 kHzに鋭いピークが乗っている様子がわかる。

fig.1 Experimental evidence for the drift wave nature of the weakly coherent mode in ASDEX Upgrade I-mode plasmas (2024) · CC BY 4.0
Fit of the WCM on the fluctuation power spectrum obtained with DBS. The shaded area illustrates the 25th and 75th percentile.
WCMの相対変動振幅は密度で最大約10%に達し、温度では2–4%程度と小さい。中心周波数は装置間でも単一放電内でも変動し、これは E×B 流速の変化に起因するとされる。ポロイダル波数はAlcator C-Modで約1.3 cm⁻¹と測定されている。一方、密度変動と温度変動の位相差については、ほぼ同相から大きな負の位相差まで測定結果が分れており、WCMの物理機構はまだ確立していない。提案されている機構には、ドリフト・アルフベン波不安定、抵抗性バルーニングモード、捕捉電子モード、そしてスケール依存的な抑制機構の残骸としてWCMが生じるという描像などがある。また、時間・空間相関を用いた計測では、L–I遷移前のLモード相にもWCMが観測されることがあり、WCMをIモード固有の特徴とみなすことには留保もついている。WCMがIモードの特異な輸送性質の原因なのか、それとも同じ乱流変化の別の現れなのかは、現在も活発に研究されている問題である。
WCM以外にも、Iモードのエッジでは低周波エッジ振動やペデスタル緩和事象が観測されており、IモードからHモードへの遷移時にはペデスタルのバースト的不安定が現れることが報告されている。これらの揺らぎがペデスタルのダイナミクスや遷移にどのように関与するかも、現在の研究課題である。
閉じ込め、装置間の広がり、炉への適合性
Iモードのエネルギー閉じ込めは、加熱出力の増加に対する劣化がLモードより緩やかであり、出力を上げるほど正規化閉じ込め係数 H98 が増大する傾向にある。最も強い温度ペデスタルと高い H98 は、低いエッジ安全係数と高い加熱出力の組み合わせで得られる。運転窓は磁場強度とともに広がるため、高磁場で運転する装置ほどIモードを維持しやすい。
IモードはAlcator C-Mod(B = 3–6 T、I = 0.7–1.3 MA)をはじめ、ASDEX Upgrade、DIII-D、EAST、KSTAR、HL-2A、TEXTORなど多様な装置・加熱法・燃料種で再現されており、装置固有の現象ではないことが確かめられている。一方で、グリーンウォルド密度規格化では f<sub>GW</sub> < 0.5 の比較的低密度域でしか達成されておらず、炉設計が要求する高密度運転との両立はまだ証明されていない。ペレット燃料供給との両立も近年ようやく実証が始まった段階であり、密度を上げながらIモードを維持できるかが炉適合性の重要な試金石となっている。また、放射冷却による排熱(不純物シードによるコア放射の強化)やデタッチ運転との両立も、炉シナリオには不可欠な要素であり、これらの条件下でのコア閉じ込めとペデスタルの応答が現在盛んに調べられている。ELMフリーで定常なペデスタルを持ち、不純物蓄積を回避しつつHモード並みのエネルギー閉じ込めを得られるというIモードの性質は、EU-DEMOをはじめとする炉設計において、Hモードに代わる運転シナリオの有力候補としてIモードを位置づける根拠となっている。
この解説が根拠にした論文から
- I-mode: an H-mode energy confinement regime with L-mode particle transport in Alcator C-ModNuclear Fusion 2010
- I-mode studies at ASDEX Upgrade: L-I and I-H transitions, pedestal and confinement propertiesNuclear Fusion 2017
- Physical mechanism behind and access to the I-mode confinement regime in tokamaksNuclear Fusion 2020
- Pellet-fueled I-mode plasmas in ASDEX UpgradeNuclear Fusion 2023
- Experimental evidence for the drift wave nature of the weakly coherent mode in ASDEX Upgrade I-mode plasmasNuclear Fusion 2024
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推移
研究の変遷
1995–20043本 · 0.03%
理論的モードとしての出現
この時期の論文は、反応性・散逸的記述によるeta iモード解析や、弱磁気シア領域での剪断スラブiモードの分岐構造など、理論的枠組みの中でiモードを扱っている。TEXTOR-94の放射Iモードプラズマにおける乱流輸送も現れ、乱流輸送・プラズマ回転・磁気シアと関連づけられた。ただし全corpusに占める割合は0.03%と小さい。
この時代の論文から
- Analysis of eta i mode by reactive and dissipative descriptions and the effects of magnetic q and negative shear on the transportNuclear Fusion 1997
- Turbulent transport and turbulence in radiative I mode plasmas in TEXTOR-94Nuclear Fusion 2000
- Separate structure of two branches of sheared slab i mode and effects of plasma rotation shear in weak magnetic shear regionPlasma Physics and Controlled Fusion 2000
2005–20147本 · 0.05%
Alcator C-ModにおけるIモード原型の確立
この時期、IモードはAlcator C-ModにおいてHモード的エネルギー閉じ込めとLモード的粒子輸送を両立する運転領域として報告され、ペデスタル構造と安定性、弱いコヒーレントモードに伴う電子温度揺動、H/Iモード遷移の閾値条件などが調べられた。論文はペデスタル、Hモード、動径電場、粒子輸送、Lモード、不純物、エネルギー閉じ込め、ELMと並んで現れ、4件がAlcator C-Modに関するものである。
同時に語られた主題ペデスタル、Hモード、径方向電場、粒子輸送、Lモード、不純物
この時代の論文から
- I-mode: an H-mode energy confinement regime with L-mode particle transport in Alcator C-ModNuclear Fusion 2010
- Pedestal structure and stability in H-mode and I-mode: a comparative study on Alcator C-ModNuclear Fusion 2013
- Electron temperature fluctuations associated with the weakly coherent mode in the edge of I-mode plasmasNuclear Fusion 2011
- Threshold conditions for transitions to I-mode and H-mode with unfavourable ion grad B drift directionNuclear Fusion 2012
2015–202644本 · 0.18%
複数装置でのIモード研究の展開
この時期にはASDEX Upgrade、EAST、Alcator C-Mod、DIII-D、KSTARと複数装置に広がり、多装置比較研究やL-I・I-H遷移、ペデスタル物理と閉じ込め特性が報告された。密度揺動と弱いコヒーレントモード、測地線振動、ダイバータ脱着、ジャイロ運動論的解析なども扱われ、2017年のAlcator C-Modでの運転領域拡大の検討まで含まれる。corpusに占める割合は0.18%に増加した。
この記述以降に論文が追加されている
同時に語られた主題ペデスタル、Lモード、Hモード、ジャイロ運動論、ダイバータ剥離、エネルギー閉じ込め
この時代の論文から
- Multi-device studies of pedestal physics and confinement in the I-mode regimeNuclear Fusion 2016
- I-mode studies at ASDEX Upgrade: L-I and I-H transitions, pedestal and confinement propertiesNuclear Fusion 2017
- Geodesic oscillations and the weakly coherent mode in the I-mode of ASDEX UpgradeNuclear Fusion 2015
- Characterization of density fluctuations during the search for an I-mode regime on the DIII-D tokamakNuclear Fusion 2015
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている(I-mode、I mode など)。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文49本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、5本の論文(うち全文2本)と3枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
