コンパス(COMPASS、COMPASS tokamak)は、核融合・プラズマ物理学の装置。英国カラム研究所でCOMPASS-Dとして運用され、現在はプラハのIPPに設置されている中規模トカマクで、ITERに似た形状とHモード運転が特徴である。ELM抑制のための共鳴磁場摂動、ランナウェイ電子、ダイバータ物理などITER関連課題の研究に使われる。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは145本ある。比重が最も大きかったのは2020–2024年で、その期間の論文の0.43%を占めた。直近の2025–2029年では0.35%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1990年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
COMPASS は、チェコ科学アカデミープラハ物理学研究所(IPP Prague)が運用した中型トカマク実験装置である。ITER に似たプラズマ形状を持ち、小型でありながら豊富な診断と柔軟な運転を生かして、エッジ・スクレイプオフ層物理、L–H 遷移と H モード、走行電子、ディスラプションといった ITER・DEMO 向けの主要課題の研究に貢献した。2009 年に運転を開始し、2021 年 8 月に解体のため停止した。後継機として高磁場・全タングステン壁の COMPASS Upgrade(COMPASS-U)が同研究所で建設中である。
装置と歴史
COMPASS は元々イギリスの Culham で COMPASS-D として運用されていた装置を移設したもので、プラハでの運転は 2009 年に始まった。主要半径は 0.56 m 程度のコンパクトな装置であり、単極ディバータ配置と内壁リミタ配置の両方、楕円形および円形断面のプラズマを運転できた。図に示すのは装置の断面である。

fig.1 Temporal super-resolution of kinetic plasma profiles at COMPASS using neural networks (2026) · CC BY 4.0
Cross-section of the COMPASS tokamak showing the vessel, limiter (black), typical plasma D-shaped boundary (red), position of TS measurements (blue crosses), and lines of sight of AXUV photodiodes and soft x-ray detectors (a). The geometry of the used coils, interferometer, and spectroscopy lines is shown in panel (b).
図には真空容器、リミッタ(黒)、典型的な D 形プラズマ境界(赤)、トムソン散乱測定点(青の十字)、AXUV フォトダイオードや軟 X 線検出器の視線、コイル・干渉計・分光の配置が描かれている。このように診断の視線がプラズマ断面を密に覆う配置は、エッジ領域の詳細測定を主目的とする同装置の性格をよく表している。
COMPASS の特徴は、装置規模に対して ITER に類似したプラズマ形状(三角形状を持つ D 形断面)を実現できる点にある。形状の相似性により、大型装置では費用やリスクが高い設計課題を小型装置で検証でき、プラズマ制御や診断開発の新規アイデアをまず COMPASS で試し、その後大型装置へ導入するという役割を果たした。加熱は 40 keV に加速した中性粒子を各 0.4 MW 注入する中性ビーム入射(NBI)2 系統とオーミック加熱によるもので、これによりオーミック H モードと NBI 支援 H モードの両方が得られた。運転は IPP 内部のプログラムに加え、広い利用者コミュニティへのオープンアクセスと教育にも供された。
プラズマ配置・加熱・診断
COMPASS の運転領域は単極ディバータ配置を中心としつつ、円形プラズマから強い三角形状を持つ H モードまで幅広い。NBI による H モード放電では、プラズマ電流の立ち上がり後に 2 系統のビームが注入され、干渉計で測る密度が H モード遷移に伴って上昇し、Hα 輝線に ELM(エッジ局在モード)による周期的なスパイクが現れる。この一連の時間発展は放電全体の標準的な描像を与える。
診断面では、トムソン散乱による電子温度・密度の断面プロファイル測定が基幹であり、これを補う形で ECE、干渉計、分光、軟 X 線カメラ、AXUV ダイオードアレイ、高速カメラなどが整備された。トムソン散乱はレーザー繰り返し周波数により時間分解能が制約されるため、軟 X 線や放射測定からニューラルネットワークで電子温度・密度プロファイルを高時間分解で再構成する手法が開発され、ELM やセイトゥース・クラッシュのような速い現象の解析に適用されている。またプラズマ位置の実時間計測には反射計が導入され、ELM の自動検出にも統計的手法が用いられた。ペレット入射装置の設置など、走行電子研究向けの診断拡充も行われた。
エッジ・スクレイプオフ層と H モード物理
COMPASS の研究の中心はエッジ領域である。H モードではエッジに輸送障壁が形成され、熱流のスクレイプオフ層での減衰長(λq)が劇的に短くなる。COMPASS では H モード放電において非常に短い熱流減衰長が実測され、この結果は JET や Alcator C-Mod のデータおよび多機種スケーリング則との比較を通じて、排熱設計の予測の検証に寄与した。ペデスタル(エッジ障壁)の特性も多機種スケーリング研究に組み込まれ、小型装置のデータが大型装置の外挿の基盤の一つとなっている。
ELM はエッジ障壁が安定性限界を超えて周期的に崩壊する現象であり、ディバータへの熱・粒子負荷を支配する。COMPASS では JET との比較により ELM 時のディバータ温度が調べられ、共鳴磁気擾乱(RMP)による ELM 制御の研究も行われた。RMP スペクトルの最適化や、RMP が放電に与える影響の評価は、ITER の ELM 制御戦略に直結する課題である。さらに、鋳造構造のプラズマ対向部材のギャップ側面に沿う粒子フラックスの直接測定など、プラズマ・壁相互作用の局所的な物理も扱われた。エッジ乱流に起因する準コヒーレントモードの観測も、エッジ輸送の理解に寄与している。
走行電子とディスラプション研究
ディスラプション(プラズマ電流の急速喪失)時に生成される走行電子(高エネルギー電子ビーム)は、大型装置の第一壁に壊滅的損傷を与えうるため、ITER の設計上の最重要課題の一つである。COMPASS では、アルゴンやネオンの大量ガス注入(massive gas injection)および不純物シードによる走行電子の生成・閉じ込め・損失が系統的に研究された。ディスラプション後の走行電子ビームの生成と、プラズマ電流から走行電子電流への変換が観測され、ループ電圧をゼロに制御することでビームの減衰を単純化した条件下で研究できるようになった。重水素をビームに追加注入すると背景プラズマの温度と密度が顕著に低下することが確認されている。また共鳴磁気擾乱が走行電子集団に与える影響も調べられ、高速カメラ、チェレンコフ検出器、垂直 ECE などの診断強化と、輸送コードと相対論的電子動力学コードの結合によるモデル化がこれを支えた。
ディスラプション自体の特性も、COMPASS の放電データベースを用いて包括的に解析された。真空容器の局所的なトロイダル電流・ポロイダル電流、すなわちプラズマから容器へ開いた磁力線に沿って流れるハロ電流の測定が可能な磁気診断を備え、電流クエンチ時の容器トロイダル電流はディスラプション前プラズマ電流の数パーセントに達することが示された。正規化された電流クエンチ時間は ITPA の下限基準と整合し、走行電子実験では 1 ms あたり 0.6 MA に達する極めて速い電流クエンチ速度が観測された。垂直変位イベント(VDE)では電流クエンチがプラズマ柱の垂直移動を加速することも確認され、これらの結果は ITER の設計検証に用いられるデータ基盤を提供している。
COMPASS Upgrade:高磁場・全タングステン後継機
COMPASS-U は COMPASS の後継としてプラハで建設中のコンパクトトカマクであり、主要半径 0.89 m、小半径 0.27 m 程度の小型容器に、磁場 5 T、プラズマ電流 1.6–2 MA、密度 2.5×10²⁰ m⁻³ という高パラメータを組み合わせる。運転当初からタングステンを唯一のプラズマ対向材料とする全金属環境とし、炭素を残さない計画であり、これは ASDEX Upgrade や WEST が段階的に移行したのとは対照的である。真空容器とプラズマ対向部材を 500 °C まで高温で運転できる点も、次世代装置の条件を先取りする特徴である。
高磁場・高電流・小型容器の組み合わせは、ディバータターゲットへの極めて大きな熱負荷を意味する。付着状態での最大エネルギーフラックス密度は 150 MW m⁻² 以上に達すると予測され、これは H モードの熱流減衰長が外側中間面で 0.6–1.2 mm と非常に短くなるためである。閉じたディバータ内の中性圧が 1–10 Pa に達することも予測されており、プラズマ対向部材の設計は同装置最大の工学的課題となっている。図に示すのは、COMPASS-U のプラズマ対向部材の輪郭と、異なる三角形状の主磁気平衡配置である。

fig.1 Physics drivers for the plasma-facing component design of the COMPASS-U tokamak (2025) · CC BY 4.0
COMPASS-U PFC outline (black) and three main magnetic equilibria with lower δ = 0.35 (red), baseline δ = 0.5 (orange) and higher δ = 0.61–0.63 (green) triangularity in (a) lower SND and (b) upper SND configurations. Dashed lines indicate different open magnetic flux surfaces corresponding to indicated distances from the separatrix at the outer midplane.
図には下部三角形状 δ = 0.35、基準 δ = 0.5、高三角形状 δ = 0.61–0.63 の 3 つの平衡配置が、下側単極(a)と上側単極(b)の両配置で、分離線から数 mm から 20 mm 離れた開いた磁束面(破線)とともに描かれている。三角形状や X 点位置を変えられるこの柔軟性は、排熱と MHD 安定性の両面でシナリオ設計の中心にある。
MHD 安定性の面では、垂直変位イベント、外部キンクモード、ティアリングモード、抵抗壁モードといった全体モードが運転限界を決める。COMPASS-U の主要シナリオに対する線形安定性解析では、理想的外部キンクモードに対しては理論的予測と整合する形で安定性が示され、解析の主眼は抵抗性モードに置かれた。圧力(β)スキャンによるノーウォール限界の特定、抵抗率と β に対するティアリングモード安定性の評価、負の三角形状シナリオや高電流・高磁場シナリオへの拡張が行われており、電子サイクロトロン加熱・電流駆動による新古典ティアリングモードの安定化可能性も検討されている。図は基準シナリオと負の三角形状シナリオのプラズマ断面を、容器と受動安定化構造とともに示したものである。

fig.2 Study of ideal and resistive MHD stability of COMPASS Upgrade scenarios (2026) · CC BY 4.0
Cross section of two plasma shapes, representing the baseline scenarios (orange) and the negative-triangularity (green) together with the wall (blue) and the passive stabilizing structures (red).
図の橙色が基準シナリオ、緑色が負の三角形状のプラズマ境界であり、青が真空容器、赤が受動安定化板の位置を表す。負の三角形状は圧力駆動モードの安定性を改善する可能性があるため、COMPASS-U では通常の正の三角形状に加えてこの形状が代替シナリオとして検討されている。このように COMPASS-U は、全タングステン壁・高温容器・高磁場という次世代装置の条件を小型装置で実現し、ITER と DEMO の運転課題、とりわけ排熱とプラズマ対向材料、MHD 安定性の研究を担う位置づけにある。
この解説が根拠にした論文から
- Overview of the COMPASS resultsNuclear Fusion 2022
- Runaway electron experiments at COMPASS in support of the EUROfusion ITER physics researchPlasma Physics and Controlled Fusion 2019
- Current quench and vessel currents characterisation at the COMPASS tokamakPlasma Physics and Controlled Fusion 2022
- Physics drivers for the plasma-facing component design of the COMPASS-U tokamakPlasma Physics and Controlled Fusion 2025
- Study of ideal and resistive MHD stability of COMPASS Upgrade scenariosPlasma Physics and Controlled Fusion 2026
- Temporal super-resolution of kinetic plasma profiles at COMPASS using neural networksPlasma Physics and Controlled Fusion 2026
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推移
研究の変遷
1985–19944本 · 0.07%
COMPASS-C/D初期のMHD・閉じ込め研究
この期の論文はCOMPASS-CおよびCOMPASS-Dトカマクにおける抵抗性MHDと軟X線計測を扱い、共起語として共鳴磁気摂動や電子サイクロトロン電流駆動が見られる。オーミックHモードの特性も報告され、のちの周辺プラズマ研究の基盤となった。
同時に語られた主題軟X線、共鳴磁場摂動、オーミック加熱、電磁流体力学、磁場摂動、電子サイクロトロン電流駆動
この時代の論文から
- Effect of resonant magnetic perturbations on COMPASS-C tokamak dischargesNuclear Fusion 1992
- Vertical asymmetries in soft X-ray emissivity in COMPASS-CNuclear Fusion 1992
- MHD control and ECCD in Compass-DPlasma Physics and Controlled Fusion 1993
- Characteristics of ohmic H-modes in COMPASS-DPlasma Physics and Controlled Fusion 1994
1995–200422本 · 0.22%
装置間比較とITER統合に向けた研究
この期はCOMPASS-DがJET、DIII-D、Alcator C-Modなどと比較され、誤差磁場モードやスクレイプオフ層幅のモデル検証が行われた。新古典テアリングモードや高速粒子不安定性、垂直変位事象も扱われ、ITERへの外挿が意識された。
同時に語られた主題周辺局在モード、プラズマ診断、電磁流体力学、Hモード、誤差磁場、電子サイクロトロン加熱
この時代の論文から
- Error field mode studies on JET, COMPASS-D and DIII-D, and implications for ITERNuclear Fusion 1999
- Neoclassical islands on COMPASS-DNuclear Fusion 1997
- Comparison of theoretical models for scrape-off layer widths with data from COMPASS-D, JET and Alcator C-ModNuclear Fusion 1999
- Quasi-stationary high β plasmas and fast particle instabilities in the COMPASS-D tokamak with ECRH and LHCDNuclear Fusion 2000
2005–201425本 · 0.16%
プラハ再設置と計測・電源基盤の整備
この期はCOMPASSトカマクがIPP Pragueに再設置され、電源系やATCAデータ収集、光学計測といった実験基盤の整備が中心であった。トムソン散乱や軟X線などの診断開発と並んで、L-H遷移やELM、共鳴磁気摂動スペクトルの最適化が論じられた。
同時に語られた主題プラズマ診断、トムソン散乱、散乱計測、電源、L-H遷移、周辺局在モード
この時代の論文から
- The optimization of resonant magnetic perturbation spectra for the COMPASS tokamakNuclear Fusion 2009
- Self-consistent transport simulations of COMPASS operation with optimized NBIPlasma Physics and Controlled Fusion 2010
- Design and engineering of optical diagnostics for COMPASSFusion Engineering and Design 2009
- An ATCA Embedded Data Acquisition and Control System for the Compass tokamakFusion Engineering and Design 2009
2015–202694本 · 0.38%
周辺プラズマ・ディバータ研究と逃走電子の時代
この期はCOMPASSにおけるディバータ計測と不純物シーディング実験が進み、熱負荷とプラズマ対向機器の研究が顕著になった。JETとの非対称性破壊比較やITER/COMPASS-U向けLモード熱流束スケーリングが行われ、逃走電子や測地線音響モードも新たに扱われた。
この記述以降に論文が追加されている
同時に語られた主題プラズマ診断、逃走電子、不純物、熱負荷、プラズマ対向機器、磁気計測
この時代の論文から
- JET and COMPASS asymmetrical disruptionsNuclear Fusion 2015
- Electron temperature and heat load measurements in the COMPASS divertor using the new system of probesNuclear Fusion 2017
- Divertor impurity seeding experiments at the COMPASS tokamakNuclear Fusion 2019
- Electromagnetic characteristics of geodesic acoustic mode in the COMPASS tokamakNuclear Fusion 2017
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている(COMPASS、COMPASS tokamak など)。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文68本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、6本の論文(うち全文4本)と3枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
