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低放射化フェライト/マルテンサイト鋼

Reduced activation ferritic/martensitic steel

低放射化フェライト/マルテンサイト鋼(Reduced activation ferritic/martensitic steel、RAFM、rafm steel)は、核融合・プラズマ物理学の材料。核融合炉のブランケットや第一壁などの構造材料として開発された鋼であり、照射下での長寿命放射性核種の生成を抑えるため、MoやNbをWやTaに置換したことが特徴である。優れた耐照射性と高温強度を持ち、ITERのテストブランケットモジュールから実証炉へ向けた主要候補材の一つである。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは156本ある。比重が最も大きかったのは2015–2019年で、その期間の論文の0.46%を占めた。直近の2025–2029年では0.42%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1995年以降で、それ以前の収録論文には現れない。

目次

  1. 1解説
  2. 2推移
  3. 3研究の変遷
  4. 4よく登場する装置
  5. 5この数字の作り方

解説

低放射化フェライト/マルテンサイト鋼(RAFM鋼)とは、核融合炉のブランケットなど炉内構造材料を想定して、照射後に生じる放射性廃棄物の長期残留を抑えるよう合金成分を設計したフェライト/マルテンサイト系鋼である。1980年代初頭、高クロム耐熱鋼Mod9Cr-1Mo(Grade91)を基に、放射化の寄与が大きいモリブデンをタングステンに、ニオブをタンタルに置き換えるという発想で提案された。現在ではF82H(Fe-8Cr-2W-0.2V-0.04Ta)やEUROFER-97(Fe-9Cr-1W-0.2V-0.12Ta)をはじめ各国の類似鋼種が開発され、データベースと産業的な製造実績の両面で、核融合炉構造材料として最も技術的に成熟した候補とされている。その代表的な組織の様子を下の図に示す。

Optical metallograph of CLAM steel surface etched by picric acid.

fig.1 Hydrogen isotope plasma-driven permeation through RAFM steel: isotope exchange and helium irradiation effect (2023) · CC BY 4.0

Optical metallograph of CLAM steel surface etched by picric acid.

図はピクリン酸でエッチングしたRAFM鋼の光学顕微鏡組織であり、数10 μm程度の焼戻しマルテンサイトの結晶粒が敷き詰めた様子が分かる。

定義と低放射化設計の考え方

核融合炉の構造材料は、高エネルギーの14 MeV中性子を高フラックスで浴び続ける。中性子は原子核と反応して放射化核種を生成するため、炉の運転終了後も材料自体が放射能を持つ。廃棄物の浅地層埋設処分が許容される線量基準を満たすためには、中性子照射によって長半減期の放射性核種を生成しやすい元素を材料から排除することが根本的に重要となる。これが「低放射化」設計の出発点である。

具体的には、耐熱鋼で高強度化に使われていたモリブデン(照射により長半減期核種を生成する)をタングステンに、ニオブをタンタルに置き換える。ニッケルも同様の理由で配合しない。こうして得られたRAFM鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼(316LNなど)と比べて、放射化レベルが低いことに加え、熱伝導率が高い(クロム含有量が少ないため)、熱膨張係数が小さい、そして照射による体積膨張(スエリング)耐性が優れているという実用上の利点を持つ。熱伝導と熱膨張の両面での有利さは、ブランケットが受ける大きな熱応力の緩和に直結する。

もっとも、低放射化は強度や組織安定性とのトレードオフを伴う。タングステンはモリブデンより原子量が大きいため同じ重量%では原子数が少なく、固溶強化の効果を確保しながら高温強度と組織安定性を元の耐熱鋼に匹敵させるには、クロム濃度7〜9 wt%、タングステン濃度最大2 wt%程度の組成が最も有望とされた。この組成窓が現在の各鋼種の共通基盤になっている。

組成と組織

RAFM鋼の基本組成は、鉄を主成分とし、クロム7〜9 wt%、タングステン1〜2 wt%、バナジウム約0.2%、タンタル0.04〜0.12%程度、炭素約0.1%である。クロムは耐食性と高温での組織安定性を与えるが、9%を超えると照射脆化が顕著になる傾向があるため、この範囲に抑えられる。バナジウム、タンタル(および微量のホウ素、窒素、酸素を意図的に制御して加える場合もある)は、焼戻し中に微細な炭化物・炭窒化物を析出させ、組織をピン留めすることで高温強度とクリープ強度を支える。

ミクロ組織は、焼入れで形成されたマルテンサイトを高温で焼戻したもので、ラース(サブグレイン)と呼ばれる微細なセル構造が高密度の転位とともに内部に残る。この転位と析出物のネットワークが転位の運動を妨げ、強度を生む。一方で組織が微細であることは、後述の照射脆化と絡んで延性-脆性遷移温度(DBTT)の挙動に影響する。タンタルやチタンの濃度、オーステナイト化温度、焼戻し条件といった製造パラメータの制御が、強度と靭性のバランスを決める鍵であり、微量合金元素の最適化は現在も活発に研究されている。

機械的特性と熱処理

RAFM鋼の機械的特性は、オーステナイト化(焼入れ)温度と焼戻し温度・時間に強く依存する。焼戻し条件を変えると引張強度(0.2%耐力)とシャルピー衝撃のDBTTの間に明瞭なトレードオフが現れ、高い焼戻し温度ほど強度は下がるが靭性(低いDBTT)が得られる。この関係を示したのが次の図である。

The relation of tensile strength (0.2% proof stress) and Charpy impact property (DBTT) of F82H for various tempering conditions [24].

fig.03 Development of benchmark reduced activation ferritic/martensitic steels for fusion energy applications (2017) · CC BY 4.0

The relation of tensile strength (0.2% proof stress) and Charpy impact property (DBTT) of F82H for various tempering conditions [24].

図は同一素材を種々の焼戻し条件(温度と時間の組み合わせ)で処理したときの0.2%耐力とDBTTの関係であり、焼戻し温度の上昇とともに耐力が下がりDBTTが低温側へ移る様子が読み取れる。構造設計では、使用温度での強度と、運転開始時および照射後のDBTTの両方を満たす熱処理条件を選ぶことになる。

実用材としての信頼性を確保するため、F82Hでは多数の溶解ロット(ヒート)間のばらつきが系統的に評価されてきた。引張強度や上部棚エネルギー(シャルピー衝撃で吸収される最大エネルギー)がクロム当量濃度や板材の厚みに対してどのように分布するかを整理することで、規格要求値(例えば室温での最小耐力や、40 ℃での最低上部棚エネルギー)に対する材料の余裕が確認されている。また、試験片の寸法や加工履歴(冷間加工)が引張特性に及ぼす影響、応力三軟度が塑性変形能に及ぼす影響といった、小型試験片データを炉設計に接続するための研究も進んでいる。高温側では低サイクル疲労下の変形・損傷挙動の実験とモデル化が行われ、熱応力を繰り返し受けるブランケット構造の寿命評価につなげられている。

中性子照射効果

核融合炉環境を模擬する最大の課題は、高速中性子による原子1個分の跳ね出し(dpa)と、核変換によって同時に生成されるヘリウム・水素ガス原子の共存である。核分裂炉での照射データによれば、RAFM鋼は照射によって硬化と脆化を生じ、0.2%耐力の上昇とDBTTの上昇、上部棚エネルギーの低下が起こる。これらの変化は照射量(dpa)と照射温度に依存し、特に300 ℃前後以下の低温照射で硬化・脆化が顕著である。照射を受けたF82Hの応力-ひずみ曲線では、非照射材に比べて耐力が上がり、加工硬化能と伸びが大きく失われる様子が見て取れる。

Engineering stress–strain curves of irradiated F82H tested at irradiation temperature.

fig.10 Development of benchmark reduced activation ferritic/martensitic steels for fusion energy applications (2017) · CC BY 4.0

Engineering stress–strain curves of irradiated F82H tested at irradiation temperature.

図は種々の条件で核分裂炉照射したF82Hを照射温度で引張試験した工学応力-ひずみ曲線であり、非照射材(0 dpa)と比較して、照射量が増えるほど降伏後の応力低下と伸びの減少が進むことを示す。

ヘリウムは鋼中の溶解度が極めて低く、照射で生成すると微細なバブルとして結晶粒界や転位に集積する。ヘリウムと水素が共存すると単独照射よりもバブル膨張(スエリング)が促進されることが確かめられており、核融合特有の14 MeV中性子による多量のヘリウム生成(核分裂炉より1桁以上多い)が、RAFM鋼の長期照射特性の不確実性の主因となっている。水素・ヘリウム照射下での欠損クラスターの生成と温度依存の進化は陽電子消滅分光などで調べられ、低温での硬化・脆化の微視的起源の解明が進められている。また表面にヘリウムプラズマを照射すると表層にバブル層が形成され、水素同位体のプラズマ駆動透過率を下げるなど、表面組織変化を介した効果も炉の燃料循環・トリチウム管理の観点から重要である。

製造、接合と次世代鋼

構造材料としての成立には、厚板・薄板・配管・チューブなど必要な形状を工業規模で製造できることが不可欠であり、F82HとEUROFER-97はこの点が実証されている。炉内構造物は溶接や拡散接合で組み立てられるため、接合部の特性評価が重要である。レーザー溶接継手の組織と機械的特性、熱間等方圧(HIP)接合界面のせん断強度をねじり試験で評価する手法、ベリリウムとRAFM鋼の拡散接合プロセスの開発などが進められている。また第一壁の一部では鋼表面が直接プラズマにさらされるため、タングステンをプラズマ溶射で被覆したRAFM鋼の熱負荷挙動や、摩擦攪拌加工による被覆の改質も研究されている。液体金属冷却ブランケットでは鉛リチウム共晶合金との共存が課題となり、550 ℃級の長時間静止・流動条件下での腐食挙動や、水素雰囲気が腐食特性に及ぼす影響、さらにはフリナック(Flinak)溶融塩中での腐食も評価されている。

次世代鋼の開発は二つの路線で進んでいる。一つは進化的路線で、計算熱力学モデルと修正熱機械処理(TMT)を組み合わせ、既存RAFM鋼の強度と照射耐性を一段引き上げるものである。もう一つはより高リスク・高リターンの路線で、粉末冶金により酸化物分散強化(ODS)材を製造する。微細な酸化物粒子を分散させたODS-RAFM鋼は、はるかに高い温度まで強度を保ち、照射による特性劣化への高い耐性が期待されるが、製造の安定性と靭性の確保が課題であり、2種類のODS-EUROFER97溶解バッチの機械試験などによる評価が続けられている。これらの次世代鋼は、運転寿命と信頼性の向上、熱力学的効率の改善、建設コスト低減を狙いとしている。

この解説が根拠にした論文から

  • [1]Development of next generation tempered and ODS reduced activation ferritic/martensitic steels for fusion energy applicationsNuclear Fusion 2017
  • [2]Development of benchmark reduced activation ferritic/martensitic steels for fusion energy applicationsNuclear Fusion 2017
  • [3]Hydrogen isotope plasma-driven permeation through RAFM steel: isotope exchange and helium irradiation effectNuclear Fusion 2023

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推移

0.00.30.5低放射化フェライト/マルテンサイト鋼197019801990200020102020%
図1 — 低放射化フェライト/マルテンサイト鋼が、5年ごとにその期間の全論文に占めた割合。コーパスは2010年代が1970年代の9倍あるため、件数のままでは何もかもが増加して見える

研究の変遷

1995–20045本 · 0.05%

適用検討と基礎特性評価の時代

この時代の論文は、ブランケットや真空容器、第一壁への適用を見据え、ガス放出特性や高温・応力サイクル下での微細組織安定性、長パルス運転時のクリープによるき裂成長を扱っている。関連語はフェライト鋼、真空容器、第一壁であり、日本のR&D進展を総括する論文も見られる。

同時に語られた主題フェライト鋼、真空容器、第一壁

この時代の論文から

  • [1]Recent progress in reduced activation ferritic steels R&D in JapanNuclear Fusion 2003
  • [2]Gas desorption properties of low-activation ferritic steel as a blanket or a vacuum vessel materialFusion Engineering and Design 1998
  • [3]Microstructural stability of reduced activation ferritic/martensitic steels under high temperature and stress cyclingFusion Engineering and Design 2002
  • [4]Mechanical tests on two batches of oxide dispersion strengthened RAFM steel (EUROFER97)Fusion Engineering and Design 2002

2005–201446本 · 0.30%

照射効果と機械的特性評価の拡大

この時代には論文数が大幅に増え、照射効果や低サイクル疲労、クリープ強度など構造材料としての機械的特性評価が中心となる。F82H鋼やEUROFER、酸化物分散強化鋼との関連が強く、ITERやTEXTOR、JFT-2Mといった装置との対応関係も現れ、ダイバータ応用やプラズマ適合性まで視野に入っている。

同時に語られた主題フェライト鋼、フェライト/マルテンサイト鋼、F82H鋼、酸化物分散強化鋼、ユーロファー、腐食

この時代の論文から

  • [1]Compatibility of reduced activation ferritic steel wall with high performance plasma on JFT-2MNuclear Fusion 2006
  • [2]Irradiation effects on reduced activation ferritic/martensitic steels—tensile, impact, fatigue properties and modellingNuclear Fusion 2009
  • [3]Low cycle fatigue properties of reduced activation ferritic/martensitic steels after high-dose neutron irradiationNuclear Fusion 2011
  • [4]Critical heat flux testing on screw cooling tube made of RAFM-steel F82H for divertor applicationFusion Engineering and Design 2005

2015–2026105本 · 0.42%

液体金属・水素同位体との両立性の時代

この時代はさらに論文数が増え、液体リチウムや鉛リチウム共晶との腐食、水素同位体やヘリウムとの相互作用など、プラズマ対向材料・液体金属との両立性が主要な論点になる。タングステンとの接合によるダイバータ靶の熱流束限界や、次世代の焼戻し・ODS鋼の開発が進められ、ITER関連の検討も継続している。

この記述以降に論文が追加されている

同時に語られた主題腐食、タングステン、F82H鋼、リチウム、鉛リチウム共晶、水素同位体

この時代の論文から

  • [1]Development of next generation tempered and ODS reduced activation ferritic/martensitic steels for fusion energy applicationsNuclear Fusion 2017
  • [2]Development of benchmark reduced activation ferritic/martensitic steels for fusion energy applicationsNuclear Fusion 2017
  • [3]Exploring the engineering limit of heat flux of a W/RAFM divertor target for fusion reactorsNuclear Fusion 2018
  • [4]Effect of magnetic field on corrosion behavior of Indian reduced activation ferritic/martensitic steel in liquid Pb–LiNuclear Fusion 2019

よく登場する装置

iter4textor1

この数字の作り方

数え方 —
同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている(Reduced activation ferritic/martensitic steel、RAFM、rafm steel など)。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
割合 —
その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
記述 —
その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
冒頭の定義 —
用語そのものの説明だけは、論文22本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
解説 —
では、3本の論文(うち全文2本)と3枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
範囲 —
収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない

低放射化フェライト/マルテンサイト鋼

種別
材料
論文数
156 本
初出
1995–1999 年(1本)
最盛期
2015–2019 年0.46%
直近
2025–2029 年0.42%
ほかの綴り
RAFM、rafm steel、activation ferritic、reduced activation ferritic、activation ferritic martensitic
主な装置
itertextor

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