Wiki / 装置 ASDEX は、核融合・プラズマ物理学の装置。軸対称ダイバータ配位を備えたトカマク装置で、Hモードの発見や高密度・高閉じ込め運転、ダイバータ物理の研究を主導してきた。原型機の後継であるASDEX Upgradeでは、全タングステン壁と強力な追加熱によりITER・DEMOに向けた周辺プラズマ・排気制御の実験が行われている。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは975本ある。比重が最も大きかったのは2020–2024年で、その期間の論文の2.04%を占めた。直近の2025–2029年では1.45%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1980年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
目次
1 解説 2 推移 3 研究の変遷 4 よく登場する装置 5 この数字の作り方 解説 ASDEXは、ドイツ・ガルヒングのマックス・プランクプラズマ物理学研究所が運用するトカマク型核融合実験装置である。1980年に稼働した初代ASDEX(Axially Symmetric Divertor Experiment)は、1982年に高閉じ込めモード(Hモード )を発見した装置として核融合研究史に特筆される存在であり、その後継機ASDEX Upgrade (AUG)は1991年から運用され、現在もITER および欧州DEMO に向けた物理・技術課題の解決を目的とした研究を続けている。装置の主要なパラメータは、プラズマ主要半径 R₀ = 1.65 m、小半径 a = 0.5 m、プラズマ電流 1.4 MA 以下、トロイダル磁場 3.2 T 以下であり、最大20 MWの中性粒子ビーム入射(NBI )、6 MWの電子サイクロトロン加熱 (ECRH)、5 MWの高周波加熱(ICRH )によって加熱される。
fig.1 Overview of ASDEX upgrade results in view of ITER and DEMO (2024) · CC BY 4.0
The new ASDEX Upgrade upper divertor consists of flat W-coated target tiles, a cryopump and two in-vessel coils (all shown in a CAD drawing in the left panel) that enable a variety of magnetic divertor configurations (right, XD = X-divertor, CRD = compact radiative divertor, LFS SF—= snowflake minus on the low field side, SF+ = snowflake plus).
ASDEX
種別 装置
論文数 975 本
初出 1980 –1984 年(8本)
最盛期 2020 –2024 年 2.04%
直近 2025 –2029 年 1.45% 索引にもどる
初代ASDEXの名前が示すように、この装置は軸対称ダイバータ を備えたトカマクとして設計された。ダイバータはプラズマ断面の下部に磁気セパラトリックス(separatrix)を作り、プラズマ縁から流出する熱と粒子を専用のターゲット板に集中させて排気する構造である。図はASDEX Upgradeの新設上部ダイバータの設計を示すもので、左側にタングステン 被覆のフラットなターゲット板、クライオポンプ、容器内コイル2基が描かれ、右側にこれらのコイルで実現される複数の磁気配置(X-ダイバータ、コンパクト放射ダイバータ、スノーフレーク配置など)が示されている。このようにダイバータ形状と磁気配置を柔軟に変えられることが、この装置が排熱・排粒子研究の中心的存在であり続けた一つの理由である。
歴史とHモードの発見
1982年、ASDEXの運用初期に、ある閾値以上の加熱出力を入射するとプラズマの閉じ込めが突然、約2倍に改善する現象が発見された。これがHモード (high confinement mode)であり、それまでの通常閉じ込め状態はLモード (low confinement mode)と呼び分けられるようになった。Hモードではプラズマ縁に急峻な勾配を持つ輸送障壁 (ペデスタル )が形成され、その内側では密度・温度プロファイルが平坦化する。この縁の輸送障壁こそが閉じ込め改善の本体であり、以後のほぼすべてのトカマク炉設計がHモード級の閉じ込めを前提としている。
Hモードへの遷移(L–H遷移 )には加熱出力の閾値 P_LH が存在する。ASDEXでの初期の研究では、P_LH は密度に弱く依存する一方、トロイダル磁場やプラズマ電流への依存はほとんど見られないと報告された。その後の研究で P_LH は密度、磁場強度、主イオン種、壁材質、磁気配置など多くのパラメータに依存することが示され、遷移の根本的な物理機構はいまだ完全には解明されていない。このため、現在の装置とは大きく異なるパラメータ領域で運転される将来炉への外挿が難しく、L–H遷移の物理的理解が現代の主要な研究課題となっている。ASDEX Upgrade はこの分野で、縁のイオン熱流束と縁の半径方向電場 E_r の関係、主イオン組成の影響、磁気摂動や壁材質の効果など、遷移条件を決める要素を実験的に切り分ける研究を長く続けてきた。
Hモードの発見は、単に閉じ込めの改善というだけでなく、縁プラズマ物理という分野そのものを切り開いた。遷移時には縁の電子温度が決定的な役割を果たすこと、遷移後のペデスタル内で磁気的・密度的揺らぎが抑制されること、そしてペデスタル形成に伴って特有のMHD安定性 問題(後述のELM )が現れることが、初代ASDEXの時代にすでに整理されている。
装置の構成:幾何形状、加熱と診断
ASDEX Upgrade は、単極ダイバータ を持つ非円形断面トカマクであり、下部ダイバータを標準構成とする。加熱はNBI 、ECRH 、ICRH の三系統を備え、これらを単独または組み合わせて用いることで、幅広い運転シナリオに対応する。NBIは複数のビームラインから異なる角度で入射され、速いイオンの分布を制御できるようになっており、近年は入射電圧を放電間で調整して低電圧時の入射出力を増せる「可変ギャップ」機構が一部のビーム源に導入された。
診断は極めて広範であり、電子サイクロトロン放射 計測、トムソン散乱 、各種分光計測、磁気プローブアレイ、速いイオン損失 計測などがプラズマ断面の各所に配置されている。運転制御は放電制御システム(DCS)が担い、プラズマ量の実時間制御能力が継続的に拡張されている。さらに、プラズマモデルとセンサ・アクチュエータ・制御系のモデルを組み合わせたシミュレータにより、放電を実行前に設計・検証したり新しい制御器を短時間で開発したりすることが可能になっている。電源 系についても、容器内コイル用のインバータシステムやコンパクトなモジュール型発電機群による増強が行われ、磁気摂動コイルやダイバータコイルへの柔軟な給電を支えている。
図はASDEX Upgradeの断面図であり、プラズマ形状、ダイバータ領域、そして多数の診断装置の視線(LOS)の配置が一つの放電の磁気配置とともに示されている。プラズマ周囲に張り巡らされた診断網が、縁プラズマ・ダイバータ領域を含めて空間的に分解された計測を可能にしていることが分かる。
この装置が国際的な閉じ込め研究で重みを持つもう一つの理由は、国際トカマク物理活動(ITPA)の閉じ込めデータベースへの長年の貢献である。ASDEX Upgradeのデータは1990年代から収録され、当初は狭い運転範囲の102放電にすぎなかったが、2002年までに643点、2006年までに1590点へと拡大され、2020年完成の最新版データベースでは2007年から2017年の放電がさらに加えられた。Hモード 閉じ込めの標準スケーリング(IPB98(y,2))はこの種の多装置データベースから導かれたものであり、金属壁を持つ装置向けの新しいスケーリングの構築にもASDEX Upgradeのデータが中心的役割を果たしている。
閉じ込め物理とL–H遷移
L–H遷移 の物理について、ASDEX Upgrade での研究が描いた像は次のようなものである。遷移の鍵を握るのは縁プラズマの半径方向電場 E_r と、それが作る E×B 剪断流である。縁の乱流は粒子と熱を外向きに輸送するが、十分な E×B 剪断が乱流を引き裂くと輸送が急減し、ペデスタル が形成される。この描像を実験的に検証するため、ポロイダル流、半径方向電場、E×B 剪断率の直接計測が行われ、縁のイオン熱流束が遷移を支配する量的条件の特定が進められてきた。遷移直前のLモード 縁乱流と剪断流の相互作用は、中間的な遷移過程(I相と呼ばれる振動的遷移状態)の観測を通じても研究されている。
P_LH を決める因子として、主イオン種の効果が詳しく調べられている。水素・重水素 ・ヘリウムプラズマ 間での遷移閾値の違いは、縁のイオン熱伝導と E_r 形成の違いとして理解されつつあり、将来のD–T運転への外挿に直結する知見となっている。また、磁場方向(イオンの B×∇B ドリフトがX点 を向くか否か)によって P_LH が大きく変わることも確立されており、ドリフトがX点から離れる「不利な」磁場方向では閾値が上昇する。この閾値の差は、Hモード に代わる運転領域を生む。すなわち、エネルギー閉じ込め は改善するが粒子・不純物 閉じ込めはLモード並みに保たれるIモード (improved mode)は、この不利な磁場配置でHモード閾値を超えない条件下で実現する。Iモードでは温度ペデスタルは形成されるが密度縁はLモード様であり、ペデスタルがピーリング・バルーニング(peeling-ballooning)安定性境界から遠いためELM が生じない。ELMはペデスタルの周期的崩壊現象であり、ダイバータターゲット に大きな過渡熱負荷 を与えるため炉では回避すべきMHD不安定性 であり、この点でIモードはDEMO 運転候補の一つと目されている。
fig.1 Pellet-fueled I-mode plasmas in ASDEX Upgrade (2023) · CC BY 4.0
Poloidal cross-section of the ASDEX Upgrade tokamak with the projection of the separatrix on the poloidal plane for a LSN-unfavorable (left) and USN-unfavorable (right) configuration. The corresponding directions of the plasma current and toroidal magnetic field are shown for each configuration, as well as the direction of the ion B \times \nabla B drift. The pellet injection path on the poloidal plane is depicted as a dashed line.
図は、同じ装置でプラズマ電流とトロイダル磁場の向きを反転させた二つの「不利な」磁気配置を示したもので、それぞれの配置でのイオン B×∇B ドリフトの向きとペレット入射 の経路が描かれている。磁場・電流の向きの組み合わせで縁のドリフト方向が変わり、それがL–H遷移閾値やIモードの実現可能性を左右する、という縁物理の中心的主題を可視化したものである。
閉じ込め研究のもう一つの柱は、速いイオンとアルフヴェン固有モードの相互作用である。NBI や高周波加熱で生じる速いイオンは、プラズマ中のアルフヴェン波 と共鳴して固有モードを駆動しうる。ASDEX Upgradeでは、せん断アルフヴェン固有モード(GAE)や圧縮アルフヴェン固有モード(CAE)が観測され、モード周波数とモード数のスペクトルがドップラーシフトされたサイクロトロン共鳴 条件で理論的に再現されることが示された。速いイオンの輸送に与えるこれらのモードの影響、例えばセイウトクラッシュに伴う速いイオン輸送 の集合トムソン散乱 による計測や、外部磁気摂動に対する速いイオン損失 とトロイダル回転 の応答の計測は、燃焼プラズマ 中のアルファ粒子 閉じ込めという炉の根本課題に向けたものである。
タングステン壁、ダイバータと排熱
ASDEX Upgrade の運転史における最大の技術的転換は、壁材質の黒鉛(炭素)からタングステン への全面移行である。1999年末にタングステン被覆部材の表面積を3%から段階的に増やし、2007年の実験キャンペーンで第一壁 の100%がタングステンで覆われた。この「W壁」への移行は、Hモード 出力閾値の顕著な低下をもたらした。その機構は、金属壁では中性粒子が炭素壁より深くプラズマに侵入するため、遷移前のLモード 縁でより急峻な密度勾配が形成されることによる、と説明されている。タングステンは核融合炉で最有力の第一壁候補材であり、その下で長年運転を続けてきた経験は、ITER の主チェンバー第一壁材をベリリウム からタングステンへ変更する議論に直接供されている。
排熱の中心課題は、ダイバータターゲット に到達する熱負荷 を許容値以下に下げることである。最も有力な手法はダイバータ 脱離(detachment )であり、燃料ガスや不純物 を縁から入射してプラズマ縁・ダイバータ領域で放射と電荷交換により熱を除去し、ターゲット前面の温度を数eVまで下げ、入射熱の最大9割を放射で捨てる状態を作る。ASDEX Upgradeでは、窒素 やネオンをシードした強放射Hモードプラズマにおいて、X点 の内側に強放射層が形成される「X点ラジエータ(XPR)」と呼ばれる状態が見出され、シード量と加熱出力をアクチュエータとして広い運転窓で制御できることが示された。XPRはターゲットの完全脱離と相関し、ペデスタル 圧力の低下を伴うが、この現象がタングステン壁の装置で安定に制御できるのに対し炭素壁の装置では不安定である点は、壁材質と縁放射物理の結合を示す重要な観測である。脱離の形成と内外ダイバータ間の非対称性は、イオンの B×∇B ドリフト方向にも強く支配され、不利な磁場方向では内外の脱離開始がほぼ均衡するなど、ドリフトの役割を解明する実験・数値解析(SOLPS-ITER 等の縁プラズマコードによる検証)が続けられている。
粒子排出の側では、核融合反応で生じるヘリウム 灰の除去が設計上の制約となる。燃焼維持には、ヘリウムのプラズマ内滞在時間とエネルギー閉じ込め 時間の比を7–15程度(ITER設計では上限10)に保つ必要がある。ヘリウムはプラズマ縁まで輸送された後、第一壁・ダイバータ表面で中性化され、ポンプで回収される前に主チェンバーへ逆流しないことが望ましい。この効率は、排気ガス中のヘリウム含有量とプラズマ中のヘリウムイオン量の比である圧縮率、およびそれと主燃料の圧縮率との比である濃縮率で定量化され、ITER設計では濃縮率0.1–0.2以上が要求される。タングステン壁下での再実験では、タングステンは炭素よりヘリウム原子の壁内保持能力が高いため壁保持の影響がより大きくなることが示され、プラズマ中の不純物輸送 と壁内長期貯蔵を自己無撞着に結合した数値モデルによって、壁保持と能動ポンプの寄与が分離された。これらの研究は、ヘリウム排出がコア輸送ではなく縁現象(スクレイプオフ層 の輸送と外部ポンプ)に律速されるという描像を確立し、ITERダイバータ設計に反映されている。
さらに、運転上の安全・制御に関わる研究もこの装置で幅広く行われている。密度極限の調査、ディスラプション(プラズマの急速な崩壊)の回避・緩和、テアリングモード のロッキングモデルの検証、ELM によるタングステンの過渡溶融実験、ダイバータ下部での炭化水素層形成やダスト生成の空間分布解析などは、いずれも金属壁トカマクを長期運転する上で生じる固有の課題であり、ITER・DEMOへの知見として蓄積されている。近年はITER機関の資金による破砕ペレット入射 (SPI)システムの導入など、ディスラプション緩和 の実証設備も整えられ、また上部ダイバータの新設により、排熱・排粒子のための先進的磁気配置を探索する体制が進められている。
ASDEXの研究史 — FusionPapers