レーザー核融合(Laser fusion)は、核融合・プラズマ物理学の手法。高出力レーザーを燃料ペレットに照射し、爆縮により超高密度・高温状態を実現して核融合反応を起こす方式である。慣性閉じ込め核融合の中心的アプローチであり、直接照射と間接照射の二つの駆動方式に大別される。点火条件の達成には均一な照射と安定な爆縮が不可欠である。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは84本ある。比重が最も大きかったのは1975–1979年で、その期間の論文の1.41%を占めた。直近の2025–2029年では0.02%。
解説
レーザー核融合(レーザーかくゆうごう、laser fusion)とは、強力なレーザー光を燃料ペレットに集中照射し、その表面の急速な加熱と吹き飛ばし(アブレーション)の反作用で燃料を極短時間に圧縮・加熱することで核融合反応を起こす、慣性核融合の代表的な方式である。燃料は重水素と三重水素の等量混合物(DT燃料)を用い、ペレットは数ナノ秒の間だけ自らの慣性によって閉じ込められる。米国の国立点火施設(NIF)がレーザー駆動の点火と燃焼を達成したことで、レーザー核融合はエネルギー源としての見通しを得たが、発電に向けた高利得化にはまだ多くの課題が残る。レーザー核融合では、融合反応が点状の燃料から全方向に放出されるため、ブランケット(増殖領域)の設計自由度が磁場閉じ込め方式より高いという特徴がある。

fig.1 Baseline design of laser fusion research reactor with MW class laser facility (2024) · CC BY 4.0
Bird’s-eye view of L-Supreme.
図はレーザー核融合研究炉の全体概念図である。実験ホール内に標的チャンバーとコアが置かれ、周囲に標的供給系、三重水素取扱実験室、排気脱三重水素装置(EDS)などが配置されている。レーザー核融合の炉施設が、レーザー照射系だけでなく標的の製造・注入・回収やトリチウム循環までを一つのプラントとして統合する必要があることを示している。
原理と点火方式
レーザー核融合の中心課題は「点火」、すなわち圧縮された燃料中心部で核融合反応が自続する状態を作り出すことである。DT反応で生じたアルファ粒子が周囲の燃料をさらに加熱し、反応が増幅される。点火に必要な条件は燃料の密度と半径の積(面密度)で決まり、圧縮された燃料は固体密度の千倍を超える超高密度となる。このとき燃料は高温プラズマとして振る舞い、レーザー光そのものはもはや内部へ届かない。
最も基本的な方式は中心点火(central hot spot ignition)である。レーザー照射でペレット表面を一様にアブレーションし、反作用でDTシェルを内側へ加速する。シェルが中心に収束すると運動エネルギーが熱に変わり、中心に高温・低密度の「ホットスポット」、外側に高密度の冷たい主燃料という二重構造ができる。ホットスポットでまず点火が起こり、燃焼波が外側の主燃料へ伝播する。この方式では点火に大きなレーザーエネルギーが必要で、高利得を得るにはメガジュール級の駆動レーザーと大きな融合収量が前提となる。
これに対して高速点火(fast ignition)は、圧縮と加熱を分離する考え方である。まずレーザーで燃料を比較的低温のまま高密度に圧縮しておき、別途ピコ秒級の超短パルスレーザーで生成した高速電子(または高速イオン)を圧縮核に注入して局所的に加熱する。加熱が別途行えるため、必要なレーザーエネルギーが下がり、同じ利得を従来より約10分の1小さい融合収量で達成できるとされる。この性質を利用すると、炉のチャンバーを小型化できる。例えば高速点火を前提とした発電炉概念では、半径5〜6メートル程度の乾式壁チャンバーで、約400キロジュールのレーザーエネルギーにより約40メガジュールの標的収量、利得約100、電気出力約400メガワット級が検討されている。高速電子を圧縮核まで導くため、金などの高原子番号円錐を標的に埋め込む方式が研究されてきたが、高電離した高原子番号イオンの強い電場が高速電子を散乱・停止させてしまう問題があり、低原子番号材料(ダイヤモンドライクカーボンなど)の円錐や、レーザー生成の外部磁場で電子の経路を制御する方式が検討されている。
衝撃点火(shock ignition)は両者の中間に位置する方式である。圧縮の最終段階で、レーザー強度を急激に上げたスパイクパルスを照射し、収束するシェルに強い収束衝撃波を打ち込んでホットスポットを点火させる。圧縮用と点火用に同じレーザー系を使え、高速点火のような別系統の超短パルスレーザーを要しない。数値研究によれば、点火スパイクの動作窓はビームの集光と圧縮パルスとの同期に依存し、スパイクの投入時刻の許容幅はビーム出力とともに広がる一方、必要最小スパイクエネルギーは出力にほぼ依存しない。標的質量やレーザー出力の誤差には数パーセント程度の余裕があるが、ホットスポットの収束比が高いため標的の位置ずれには敏感である。
照射均一性とチャンバー内ビーム配置
レーザー核融合では、ペレット表面の照射強度のむらがそのまま圧縮のむらに直結する。点火と高利得には、一般に照射均一性が1〜2パーセント(二乗平均平方根偏差)の水準で要求される。これは極めて厳しい要求であり、標的設計と炉設計の双方を規定する鍵となっている。
むらの原因は大きく二つに分けられる。一つはビーム本数と配置という幾何学的な要因で、有限本数のレーザービームを球面上の照射点に振り分けるだけでは、低次の球面調和成分(低モード)のむらが必ず残る。もう一つはランダム誤差、すなわちビームの照準ずれ、出力の不均衡、標的の設置位置ずれなどである。低モードのむらは圧縮中のシェルを非対称に変形させ、最悪の場合、飛行中のシェルを破って(パンクチャー)圧縮を失敗させる。実際に、現行最高水準の性能で実施された直接駆動実験でも、低モードの振幅により標的が破壊されることが実験とシミュレーションの両方で示されており、ランダム誤差に起因する低モードは原理的に完全には除けないため、将来のビーム配置設計ではこれらの誤差に対する頑健性を最初から考慮すべきだとされる。

fig.1 Comparison of chamber beam geometry robustness to mispointing, imbalance and target offset for direct-drive laser fusion facilities (2024) · CC BY 4.0
Perspective view of a unit sphere with the M72 geometry. Orange filled circles and dark empty circles respectively denote northern and southern hemisphere beam ports location. Colored lines represent latitudes for better perspective. Points are projected on the equatorial-plane normal to the view axis (z-axis). The laser beams are pointing towards the chamber center.
図はチャンバー内のビーム配置を評価するための単位球面上の照射点配置を示したものである。北半球と南半球のビームポートの位置がそれぞれ塗りつぶしと白抜きの円で表され、各ビームがチャンバー中心を指向している。このような球面配置の幾何学を評価することで、照射均一性を設計段階で見積もることができる。
ビーム配置の工夫は、既存の間接駆動用施設を直接駆動に転用する研究にもつながっている。例えば、間接駆動用のビーム配置を持つメガジュール級レーザー施設で、半球あたり2リングの照射構成を用いれば、100万ジュール未満の入射レーザーエネルギーで約32メガジュールの熱核融合エネルギーが得られるという二次元流体計算の結果が報告されている。また、直接駆動ではレーザー光とプラズマの相互作用によるエネルギー損失(CBETと呼ばれる光の再分配)も照射むらと収縮性能に影響する要因であり、ビーム本数が限られる中小規模施設では特に深刻である。
流体不安定性与よび標的の頑健性
圧縮の加速過程では、密度の高い燃料シェルが低密度のアブレーションプラズマに押される構造となるため、レイリー・テイラー不安定(RT不安定)が本質的に避けられない。この不安定は界面の凹凸を指数関数的に増幅し、高利得に必要な「中程度に薄い」シェル標的では特に深刻である。シェルが薄いほど加速が長く続き、成長に時間を与えるためである。不安定が成長しすぎると冷たいDTシェルと高温点火部が混合(ミックス)し、点火性能が劣化する。
しかし、レーザーによる直接アブレーションは不安定の成長率を古典値より大幅に下げる効果を持つことが計算と実験の両面で示されている。アブレーションが界面の摂動を物理的に吹き飛ばすためで、これにより中程度に薄いシェルでも破断を回避し、利得数百を達成できる可能性が開けた。さらに、多少のミックスが生じても収量の低下は軽微にとどまりうることも示されている。衝撃点火の数値研究でも、圧縮パルスの先頭に弱い予備パルス(ピケット)を置いて断熱指数を整形することで、アブレーション面でのレイリー・テイラー不安定とリヒトマイヤー・メシュコフ不安定の両方の成長が抑えられること、また点火用の強い衝撃波自体が減速期のRT成長を抑制する役割を果たすことが示されている。標的の頑健性は、照射均一性と並んでレーザー核融合の成立条件を二分する要素である。
炉および施設の設計
レーザー核融合を発電に結びつけるには、プラズマ物理の課題とは別に、炉工学の課題を解決する必要がある。炉設計の中心要素は、(1) 高繰り返しで高効率な駆動レーザー、(2) チャンバー壁の保護、(3) 標的の大量製造と連続注入、(4) トリチウム増殖ブランケット、の四つである。
チャンバー設計には乾式壁方式と液体壁方式がある。乾式壁は構造が単純で保守が容易だが、壁が中性子やX線、イオンの直撃を受ける。高速点火の採用により融合収量を抑えられれば、半径5〜6メートル程度のコンパクトな乾式壁チャンバーが成立し、壁の熱機械解析とブランケットの中性子学解析から設計の実現性が示されている。固体増殖材を用いたブランケットは、磁場閉じ込め炉と異なりブランケット空間が原理的に制限されないため、点状の融合源からの距離によってアルファ粒子と中性子のフラックスを制御できるという設計上の利点がある。一方、点状源から全方向に放出されるアルファ粒子の影響は磁場閉じ込め炉より厳しく、壁負荷の評価が重要となる。
標的の連続注入は、発電炉が毎秒数発から数十発のペースでペレットをチャンバー中心に投入し、レーザーと同期させる必要があるため、最も工学的に難しい要素の一つである。非接触浮上による標的姿勢制御や、ガスガンとコイルガンを組み合わせた注入系、標的の追尾・照準合わせ(エンゲージメント)の統合システムが研究されている。磁気浮上標的の振動を抑えるアクティブダンパーも、高精度照準のための要素技術である。また、標的の品質管理も重要で、ポリスチレン製シェルへのトリチウムドープを高めるための紫外レーザー・水素プラズマ処理、標的内ガス成分の分析、構造化標的の性能計算など、標的製造技術の研究が進められている。
もう一つの段階として、点火に至る前の「部分点火・燃焼」段階の融合反応を利用する研究炉の構想がある。メガワット級レーザー施設を備えたこの種の概念では、DT融合中性子源としてエネルギー変換、トリチウム増殖、材料の照射効果といった炉工学課題を研究するとともに、少数ワット級の発電実証を目指す。1万発の積算で約0.22メガジュールの熱出力を見込むもので、既存技術の組み合わせで構築可能とされる。このように、レーザー核融合の発展は、プラズマ物理研究(点火・燃焼の実証)と炉工学研究(繰り返し運転、エネルギー変換、トリチウム増殖)の二本立てで進むことになる。
この解説が根拠にした論文から
- High-gain direct-drive laser fusion with indirect drive beam layout of Laser MégajouleNuclear Fusion 2007
- Conceptual design of fast-ignition laser fusion reactor FALCON-DNuclear Fusion 2009
- The Rayleigh-Taylor instability in direct-drive laser fusionPlasma Physics and Controlled Fusion 1987
- Studies on the robustness of shock-ignited laser fusion targetsPlasma Physics and Controlled Fusion 2011
- High-energy-density plasmas generation on GEKKO-LFEX laser facility for fast-ignition laser fusion studies and laboratory astrophysicsPlasma Physics and Controlled Fusion 2012
- Baseline design of laser fusion research reactor with MW class laser facilityNuclear Fusion 2024
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推移
研究の変遷
1970–198419本 · 0.77%
理論的基礎とペレット設計の時代
この時代はレーザー核融合の理論的基盤とペレット構造の研究が中心で、等エントロピー圧縮や熱伝導制限、高エネルギーイオン損失、超熱電子輸送などが論じられた。Fusion targetやDeuterium-tritium、Hard X-rayなどと並び、計算によるペレット性能評価が行われた。タイトルは19件で全体の0.77%を占め、後の時代より高い割合を示している。
同時に語られた主題核融合ターゲット、硬X線、プラズマ診断、干渉計、水素同位体、核融合爆縮
この時代の論文から
- Theory of homogeneous isentropic compression and its application to laser fusionNuclear Fusion 1974
- Thermal conduction limitations in laser fusionNuclear Fusion 1973
- Influence of high-energy ion loss on DT reaction rate in laser fusion pelletsNuclear Fusion 1979
- The calculated performance of structured laser fusion pelletsNuclear Fusion 1975
1985–199413本 · 0.24%
実験施設とプラズマ不安定性研究
ガルヒング、ロチェスター大学、英国SERC中央レーザー施設など、各地の実験施設に関連する研究が報告された。刺激ラマン散乱やレイリー・テイラー不安定性など、レーザーとプラズマの相互作用が主要なテーマとなった。論文数は13件、全体の0.24%に減少した。
同時に語られた主題核融合ターゲット、誘導ラマン散乱、レイリー・テイラー不安定性、ラマン散乱、プラズマ診断
この時代の論文から
- Research relevant to laser fusion at GarchingNuclear Fusion 1985
- Laser fusion experiments at the University of RochesterNuclear Fusion 1985
- Highlights of laser fusion related research by United Kingdom universities using the SERC Central Laser Facility at the Rutherford Appleton LaboratoryNuclear Fusion 1985
- Constraint on the residual gas density in laser fusion target chambers due to stimulated Raman scatteringNuclear Fusion 1991
1995–200420本 · 0.20%
点火に向けた統合的活動
LLNLの高エネルギー短パルス技術、大阪大学ILEの活動、X線イメージングによる照射均一性測定など、実験・施設報告が目立つ。高速加熱による点火、フュージョン出力プラント、イオン音波、減衰不安定性などと共に論じられた。20件で全体の0.2%を占めた。
同時に語られた主題X線イメージング、核融合ターゲット、核融合発電所、イオン音波、点火、崩壊不安定性
この時代の論文から
- An overview of LLNL high-energy short-pulse technology for advanced radiography of laser fusion experimentsNuclear Fusion 2004
- Fast heating of super-solid density plasmas towards laser fusion ignitionPlasma Physics and Controlled Fusion 2002
- Irradiation uniformity measurement of laser fusion pellets by an X-ray imaging methodFusion Engineering and Design 1997
- Recent laser fusion research activities of ILE, Osaka UniversityFusion Engineering and Design 1999
2005–201416本 · 0.10%
直接駆動と新たな点火方式
直接駆動のレーザー・ターゲット結合効率、Laser Mégajouleの間接駆動ビーム配置を用いた高利得直接駆動、インパクト点火など、点火方式の多様化が進んだ。刺激ブリルアン散乱位相共役鏡によるレーザードライバーや、HiPER・LIFEの最終レンズ性能も扱われた。16件で全体の0.1%に低下した。
同時に語られた主題点火、核融合ターゲット、誘導ブリルアン散乱、プラズマ診断、核融合発電所、ブリルアン散乱
この時代の論文から
- Optimization of laser–target coupling efficiency for direct drive laser fusionNuclear Fusion 2005
- High-gain direct-drive laser fusion with indirect drive beam layout of Laser MégajouleNuclear Fusion 2007
- Impact ignition as a track to laser fusionNuclear Fusion 2014
- Wave-front dividing beam combined laser fusion driver using stimulated Brillouin scattering phase conjugation mirrorsNuclear Fusion 2009
2015–202616本 · 0.06%
炉工学と統合シミュレーションの時代
HiPERのタングステン第一壁の熱機械挙動、レーザー核融合未臨界研究炉のコアサイズ効果など、炉工学の側面が現れる。磁場支援高速点火の統合シミュレーションや、熱核粒子・反跳核放射のスペクトル組成など、点火実験に向けた統合的解析が行われた。Fusion target、Ignition、Tritium、Fusion power plantなどと共に論じられ、16件で全体の0.07%と最も低い割合となった。
同時に語られた主題点火、核融合ターゲット、トリチウム、タングステン、トリチウム増殖、水素プラズマ
この時代の論文から
- Modelling the thermomechanical behaviour of the tungsten first wall in HiPER laser fusion scenariosNuclear Fusion 2016
- Core size effects of laser fusion subcritical research reactor for fusion engineering researchNuclear Fusion 2021
- Integrated simulation of magnetic-field-assist fast ignition laser fusionPlasma Physics and Controlled Fusion 2017
- Spectral composition of thermonuclear particle and recoil nuclear emissions from laser fusion targets intended for modern ignition experimentsPlasma Physics and Controlled Fusion 2018
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文46本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、7本の論文(うち全文2本)と2枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
