Magnum-PSIは、核融合・プラズマ物理学の装置。オランダのDIFFER研究所にある大型線形プラズマ発生装置で、超伝導磁石によりITERダイバータ相当の高密度・低温度プラズマを生成する。プラズマ対向材料や液体金属ダイバータの検証、ELM様過渡現象、デタッチメント物理などの研究に広く用いられている。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは45本ある。比重が最も大きかったのは2020–2024年で、その期間の論文の0.17%を占めた。直近の2025–2029年では0.13%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは2000年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
Linear plasma generator
解説
Magnum-PSIは、オランダのDIFFER研究所に設置された直線型プラズマ生成装置(linear plasma generator)であり、核融合炉のダイバータで起こるプラズマと材料表面との相互作用を、炉心プラズマを伴わずに実験室で再現することを目的としている。トカマクのダイバータでは、プラズマからの排熱が狭い領域に集中するため、定常で10 MW m⁻²程度、遷移現象であるエッジ局在モード(ELM)の際にはそれをはるかに超える熱負荷が第一壁・ダイバータ材に加わる。Magnum-PSIは、このようなITERダイバータ想定条件に近い高密度・高熱流束のプラズマを定常的に生成できる、数少ない実験施設の一つである。

fig.1 Dynamic response of atomic processes in detached helium plasma induced by high-density transient pulse in Magnum-PSI (2025) · CC BY 4.0
A schematic of the experimental setup in Magnum-PSI.
図はMagnum-PSIの実験配置の概要を示したものである。カスケードアーク型プラズマソースから出たプラズマビームがスキマーを通ってターゲット板へ導かれ、途中に磁場とパルスが重畳した状態が描かれている。ターゲット近傍ではトムソン散乱(TS)によるレーザー計測と分光計測(OES)が行われる。
概要と目的
核融合炉の開発における最大の難題の一つは、プラズマからの排熱処理である。ITERでは定常運転で10 MW m⁻²、遅い過渡現象では20 MW m⁻²の熱負荷がダイバータに想定されており、これは現在の材料技術が耐えられる限界(おおむね10 MW m⁻²)に達するか、それを超える。このため、プラズマの一部をターゲットに届く前に体積的に消散させる「ディタッチメント(プラズマ剥離)」や、液体金属を表面材料に用いる案など、さまざまな緩和策が検討されている。
これらの現象をトカマクそのもので研究すると、診断アクセスが難しく、再現性も低い。直線型装置はトカマクの端領域を単純化した幾何で再現するもので、Magnum-PSIはその中でも特に高磁場(1テスラ超)と高密度プラズマを両立できる点に特徴がある。電子密度が10²⁰ m⁻³のオーダー、ターゲット面への垂直熱流束がITERターゲットに匹敵する定常プラズマを長時間生成でき、さらにコンデンサバンクを用いてELM様の短い熱パルスを定常プラズマに重畳させることもできる。これにより、ディタッチメント状態のプラズマにELMが入射したときに体積再結合過程がどう乱され、ターゲットが再結合(リアタッチ)して高熱負荷に再びさらされるか、といった動的な問題を実験室で扱える。
装置設計:ソース、磁石、真空系
プラズマ源には、カスケードアークと呼ばれる高圧アーク放電を用いる。水素やヘリウム、アルゴンなどの作動ガスをアークで加熱・電離し、高密度のプラズマビームとして噴出する。ソース下流にはスキマー(絞り)が置かれ、プラズマビームだけを通して中性ガスを別室へ逃がす差動排気を行うことで、ターゲット室の中性圧力を独立に制御できる。これはディタッチメント実験において、ターゲット近傍の中性粒子密度を系統的に変えられることを意味する。
プラズマビームは超伝導磁石が作る強い縦磁場によって磁力線に沿って閉じ込められ、直径数cm程度の柱状プラズマとしてターゲットまで輸送される。強磁場であることは二つの点で重要である。第一に、磁場を強めることで一定の入射パワーに対するプラズマ柱の断面積が減り、ターゲット面の熱流束をITER相当まで上げられる。第二に、ITERダイバータ近傍で想定されるような、磁力線方向の平均自由行程が短く強く衝突性の高いプラズマを実現できる。ターゲットは水冷式の熱シンクに載せられ、長時間の定常照射に耐えられる設計になっている。装置全体の制御・データ収集系は、定常運転とパルス運転の両方を安全に統括するものとして設計されている。
プラズマ運転と診断
Magnum-PSIの診断の中心は時間分解トムソン散乱である。レーザーをプラズマ柱に横から入射し、散乱光のスペクトルから電子密度と電子温度を空間分解で求める。これに加えて、分光計測(OES)によってヘリウムや水素の原子・分子の発光を観測し、励起・電離・再結合の原子過程を追うことができる。高速カメラによるプラズマ柱全体の発光撮影や、赤外線カメラによるターゲット表面温度の計測、ターゲット電流の測定も併用される。

fig.1 Effect of detachment on Magnum-PSI ELM-like pulses: direct observations and qualitative results (2024) · CC BY 4.0
Schematic of Magnum-PSI linear plasma machine. z = 0 corresponds to the surface of the target, Thomson scattering (TS, in purple) and Optical Emission Spectroscopy (OES, in pink) are located at z = -31.2 mm. The TS view is composed of 50 evenly spaced Lines of Sight (LOS) orthogonal to the plasma column length (z). The OES view is composed of 40 LOS perpendicular to the column length. The fast camera, for measuring integrated light emission from the plasma, has a radial view of the plasma (in green) through a lateral viewport of the vacuum vessel of diameter ∼75 mm. The IR camera has a radial view (in yellow) that is converted to looking at the target surface by a mirror outside the target chamber. The mirror angle can be adapted to maintain the view of the target when moved in z.
図は装置全体の模式図であり、ソース室から加熱室、ターゲット室へと続くプラズマ柱に沿って、トムソン散乱と分光の視線、高速カメラと赤外カメラの視野がどこに配置されているかを示している。トムソン散乱はターゲット表面から約31 mm上流の位置で50本の視線により断面を計測し、分光は40本の視線で発光を捉える。
この診断体系により、定常プラズマのパラメータ計測にとどまらず、ELM様パルスが入射した際のプラズマの崩壊と回復の過程をマイクロ秒からミリ秒の時間分解で追うことができる。ディタッチメント実験では、ターゲット室の中性圧力を上げることで体積再結合が優勢な低温プラズマを作り、そこへパルスを重畳して、中性粒子の枯渇やヘリウムイオン(He²⁺)の存在が再結合過程の動的応答に与える影響が調べられている。
プラズマ・表面相互作用:ターゲット、ディタッチメント、液体金属
Magnum-PSIの主要な研究テーマは、プラズマにさらされる材料の挙動である。タングステンはITERのダイバータ第一候補材料であるが、高Z元素であるためプラズマ中に0.1%未満しか許されず、侵食を抑え再堆積を最大化することが重要となる。ITERダイバータ近傍では、電子密度が2×10²⁰ m⁻³超、電子温度が5 eV未満という強く衝突性の高いプラズマが想定され、この条件下ではスパッタされた不純物がプラズマ流に引きずられて(エントレインメント)再堆積するという、トカマク実験では観測が難しい機構が働く。Magnum-PSIの高密度・低温プラズマはこの機構を実験的に検証できる数少ない場であり、バイアスしたタングステンターゲットとその周囲のウィットネスプレートを用いて侵食と再堆積の評価が行われている。
液体金属ダイバータの研究も大きな柱である。リチウムは蒸発・凝縮を繰り返して自己補充的に表面を維持でき、低Zであるため低温域で効率よく放射冷却を起こす。特に「ベイパーボックスダイバータ」の概念では、多孔質構造(キャピラリープーラス構造)に保持されたリチウムが加熱された中央室から蒸発し、低温の隣接室で凝縮して蒸気雲を閉じ込め、入射プラズマを衝突・放射過程で体積的に減衰させる(ベイパーシールディング)。Magnum-PSIではこの概念を直線装置向けに小型化したモジュールを用いて実験が行われ、プラズマ入力を4.5から11.1 MW m⁻²の範囲で変えながら中央室温度を室温から700 °Cまで変化させ、ターゲット熱負荷の低減とリチウム輸送の評価がなされている。

fig.2 Experimental evaluation of the vapor box divertor concept with an open vapor box module in Magnum-PSI (2026) · CC BY 4.0
Schematic representation of the Vapor Box Module (VBM) integrated in Magnum-PSI. The plasma beam enters from the left through the upstream aperture (U), interacting with the lithium vapor cloud generated in the heated central box (CB). Lithium vapor is recondensed in the two adjacent side boxes (SBs), positioned upstream and downstream relative to the CB. After exiting the VBM through the downstream aperture (D), the plasma impacts the target mounted on the Multi-Target Holder (MTH), equipped with embedded thermocouples, represented with blue circles outlined in red, and calorimetry diagnostics for heat flux measurements. Positions U and D indicate the locations where optical diagnostics (Thomson Scattering, Optical Emission Spectroscopy, and filtered camera imaging) investigate plasma parameters.
図はベイパーボックスモジュールの構成を示す。プラズマビームは上流側の開口から入って加熱された中央室のリチウム蒸気雲と相互作用し、下流側の開口を出てターゲットに達する。ターゲットには熱電対とカロリメトリが組み込まれ、上下流の位置で光学診断によりプラズマパラメータが計測される。
液体金属表面での水素同位体の保持も炉の燃料サイクルに関わる重要な問題である。リチウムは水素と容易に水素化物を形成するため、リチウムと重水素が共堆積するとトリチウムが回収困難な場所に閉じ込められる恐れがある。Magnum-PSIではリチウム充填のターゲットを重水素プラズマに曝し、その場核反応分析(NRA)や弾性後方散乱分析によって共堆積層中の重水素量を温度の関数として測定し、シミュレーションと比較する研究が進められている。また、プリフィル型のリチウムターゲットにELM様パルスを入射した際のベイパーシールディング効果や、多孔質タングステン被覆材の重水素保持・除去についても調べられている。
モデリングとITERへの外挿
直線装置の実験結果をトカマクへ外挿するには、プラズマと中性粒子の分布を連成して解く数値モデルが不可欠である。Magnum-PSIでは、トカマクで標準的なSOLPS-ITERに加え、直線装置向けに開発された中性粒子モジュールEunomiaとB2.5を結合したコードが用いられてきた。両者はプラズマ・中性粒子過程の実装が異なり、同じ実験データを再現しながらもプラズマと中性粒子の空間分布が大きく異なる解を与えることが示されている。ソース部の電位を調整すればいずれもターゲット近傍の電子密度・温度の実測とよく合うが、高い中性圧力域ではSOLPS-ITERのほうが実験傾向に近く、収束解が得られる圧力範囲も広い。この種の比較は、直線装置データを炉設計に結び付ける際の系統誤差を見積もる上で重要である。
モデル検証の場としてディタッチメント実験も行われている。ターゲット室の中性圧力を上げてディタッチメントを誘起した状態でELM様パルスを入射すると、パルスのエネルギーの一部が中性粒子の電離・解離に費やされてターゲットへの入射が減ることが観測されており、ベイパーボックスモジュール実験の解釈にもSOLPS-ITERによる予測が用いられている。直線装置はトカマクと比べて磁力線に沿った接続長が短く、再結合ループの寄与が小さいなどの差異があるものの、単純な幾何と優れた診断アクセスにより、原子・分子過程という共通の物理を検証する場として、ITERダイバータの設計検証に寄与している。
この解説が根拠にした論文から
- Coupled simulations with SOLPS-ITER and B2.5-Eunomia for detachment experiments in Magnum-PSIPlasma Physics and Controlled Fusion 2023
- Deuterium retention in co-deposition with lithium in Magnum-PSI: experimental analysis and comparison with SOLPS-ITERNuclear Fusion 2024
- Effect of detachment on Magnum-PSI ELM-like pulses: direct observations and qualitative resultsNuclear Fusion 2024
- High erosion and re-deposition rates of tungsten in the highly collisional plasmas of Magnum-PSINuclear Fusion 2025
- Dynamic response of atomic processes in detached helium plasma induced by high-density transient pulse in Magnum-PSINuclear Fusion 2025
- Experimental evaluation of the vapor box divertor concept with an open vapor box module in Magnum-PSINuclear Fusion 2026
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推移
研究の変遷
1995–20041本 · 0.01%
ITER条件下でのプラズマ-表面相互作用研究の開始
この時代は1本の論文のみであり、Magnum-PSIをITER関連条件でのプラズマ-表面相互作用研究のための新しい線形プラズマ発生装置として紹介している。関連装置としてITERが現れる。
この時代の論文から
- Magnum-psi, a new linear plasma generator for plasma-surface interaction studies in ITER relevant conditionsFusion Engineering and Design 2003
2005–201413本 · 0.08%
診断開発と設計段階
論文はトムソン散乱や集団トムソン散乱などの診断手法と、ITER類似条件下でのプラズマ-壁相互作用実験装置としての設計・予備設計を扱っている。また、ELM再現システムに関する研究も現れる。ITERが関連装置として登場する。
同時に語られた主題トムソン散乱、データ収集、プラズマ壁相互作用、データ収集システム、集団トムソン散乱
この時代の論文から
- Thomson scattering at Pilot-PSI and Magnum-PSIPlasma Physics and Controlled Fusion 2009
- Collective Thomson scattering for ion temperature and velocity measurements on Magnum-PSI: a feasibility studyPlasma Physics and Controlled Fusion 2010
- A high-repetition rate edge localised mode replication system for the Magnum-PSI and Pilot-PSI linear devicesPlasma Physics and Controlled Fusion 2014
- Magnum-psi, a plasma generator for plasma–surface interaction research in ITER-like conditionsFusion Engineering and Design 2005
2015–202631本 · 0.12%
ダイバータターゲットとプラズマ-材料相互作用の研究
この時代の論文はタングステンやリチウムを含むダイバータターゲット材料の挙動、ディタッチメント、重水素保持、シールディングなどを扱い、ITER類似のモノブロックやELM様パルス負荷の研究が含まれる。SOLPS-ITERなどのコードも登場し、ITER関連の研究が継続している。
この記述以降に論文が追加されている
同時に語られた主題タングステン、リチウム、ダイバータ剥離、SOLPS-ITER、重水素、ヘリウム
この時代の論文から
- Power handling and vapor shielding of pre-filled lithium divertor targets in Magnum-PSINuclear Fusion 2019
- Power deposition on misaligned castellated tungsten blocks in the Magnum-PSI and Pilot-PSI linear devicesNuclear Fusion 2017
- Performance of liquid-lithium-filled 3D-printed tungsten divertor targets under deuterium loading with ELM-like pulses in Magnum-PSINuclear Fusion 2021
- Plasma radiation studies in Magnum-PSI using resistive bolometryNuclear Fusion 2018
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文27本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、6本の論文(うち全文5本)と3枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
