Wiki / 装置 島ダイバータ (Island divertor、island divertors)は、核融合・プラズマ物理学の装置。磁気島を利用して周辺プラズマから熱と粒子を分離し、ダイバータ板へ導く排気機構である。ヘリカル装置の非軸対称磁場に自然に適合し、トカマク型ポロイダルダイバータに相当する役割を担う。特にW7-Xで実証され、粒子制御と熱負荷低減を両立させ、コアの不純物混入を抑える。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは42本ある。比重が最も大きいのは直近の2025–2029年で、その期間に発表された論文の0.23%を占める。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1995年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
目次
1 解説 2 推移 3 研究の変遷 4 よく登場する装置 5 関連項目 6 この数字の作り方 解説 島ダイバータ(island divertor)とは、閉じ込め領域の縁に自然に、あるいは外部コイルによって形成される磁気島 (磁力線が閉じたトロイダル状の螺旋構造をなす領域)を、プラズマの排熱・排気を受け持つダイバータ として利用する磁気閉じ込め核融合装置の端部構成である。軸対称なX点 を持つトカマク型ダイバータとは異なり、磁気島の螺旋構造に沿って三次元的に配置されたターゲット板へ熱流を導く点を特徴とする。この概念は低シアのヘリアカル装置であるW7-AS で初めて実証され、その後Wendelstein 7-X(W7-X )で本格的な運用に至ったほか、大半径のシアが大きいLHD では外部磁場で作った局所的な島を用いる「局所島ダイバータ」として、またJ-TEXT トカマクでも試験されている。
fig.1 Electric fields and stationary drift flows in the island divertor SOL of Wendelstein 7-X (2025) · CC BY 4.0
3D sketch of W7-X with two closed flux surfaces (blue), the 5/5 magnetic island chain (colored), divertor plates (black), plasma vessel (gray). For clarity, individual components are not shown over the full toroidal extent. Two cross sections are shown as insets.
図はW7-Xにおける島ダイバータの全体像を示す三次元スケッチであり、閉じ込め領域の閉じた磁気面(青)を取り囲むように、共鳴した磁気島の連鎖(彩色部)が形成され、その磁力線が黒いダイバータ板に交差する様子が描かれている。このように、主プラズマの外縁を島の連鎖が「縁取り」し、そこからターゲットへ磁力線が開く構造こそが、島ダイバータの物理的な出発点である。
島ダイバータ
種別 装置
論文数 42 本
初出 1995 –1999 年(3本)
最盛期 2025 –2029 年 0.23%
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島ダイバータの概念 核融合炉の成立条件の一つは、炉心から流出する数十分の熱出力を、材料の許容限界(定常で10 MW/m²未満程度)に抑えつつ排気することである。磁力線に沿った輸送は垂直方向より数桁大きいため、熱は開いた磁力線に沿ってターゲットに集中しやすく、トカマクではプラズマ電流の増大とともに熱流の減衰長が縮み、予測されるピーク熱負荷 はITER で約30 MW/m²に達する。この課題に対し、島ダイバータは磁気島 の内部で磁力線のピッチ角(局所回転変換)を極端に小さく保つことで、ターゲットまでの接続長を数百メートル規模に引き延ばす。接続長が長いほど、同じ垂直輸送係数でも磁力線に沿った輸送に対する垂直輸送の相対的な寄与が増し、熱がターゲット上の狭い帯に集中する前に広げられる。トカマクのダイバータ で磁力線ピッチが0.1程度であるのに対し、島ダイバータでは0.001〜0.005という値が報告されており、これが熱負荷低減の主要な幾何学的要因である。
ダイバータに共通する設計原理、すなわちターゲットのピーク熱負荷を最小化しつつ下流側での再結合中性ガスの圧力を最大化するという要件は、島ダイバータでも同様に追求される。粒子フラックス増強、中性粒子の遮蔽、不純物 の保持、不純物輻射による除熱、そして脱着(detachment )といったダイバータの基本機能は、W7-AS での研究を通じてトカマク型ダイバータと比較・評価され、島ダイバータでも成立することが示された。ただし、その実現は完全に三次元的な問題となる。
磁気島のトポロジーとダイバータ幾何 島ダイバータの性能は磁気島 の幾何学に強く依存する。W7-AS やW7-X のような低シア・シュテラレータでは、縁の回転変換が低次の有理数値を横切る際に自然に生じる島列(W7-Xでは5/5など)を利用する。装置は各モジュールに島制御コイルを備え、島の位置(回転変換分布で設定)やピッチ角(制御コイルで調整)を外部から変えられる。これにより磁気配置の自由度は極めて高くなる一方、島の螺旋構造、ターゲット板・バッフルの不連続な配置、プラズマ電流の効果がすべて重なり、熱を受け持つべきでない表面への熱負荷 回避には多次元の磁気配置空間にわたる最適化が必要となる。
三次元性はスクレイプオフ層 (SOL)の構造にも現れる。島のSOLは単一の領域ではなく、接続長の異なる複数の領域から構成される。島の磁力線が直接ターゲットに交差する主輸送チャネル(島SOL)、島列どうしの間の私的磁束領域、そしてダイバータ ユニットのトロイダル分割に起因するターゲット影領域(target shadow)である。影領域では磁力線がターゲットに当たるまでの接続長が短く(数十メートル規模)、主チャネル(数百メートル)とは全く異なる輸送振る舞いを示す。磁力線がターゲットに入射する角度の分布も複雑で、磁気配置とともに変化する。このため設計には磁力線拡散法(FLD)のような高速な手法や、EMC3-Eireneのような三次元端部輸送コードが用いられ、実際のW7-Xダイバータの熱負荷予測に使われてきた。ただしFLD法はターゲットの熱負荷は再現できても隣接バッフル上のホットスポット(設計値の一桁上回る局所熱負荷が観測された)までは予測できず、三次元コードの高速化が課題となっている。
島SOLにおける端部輸送 島ダイバータのSOL 輸送を特徴づけるのは、平行輸送と垂直輸送のバランスである。前述のように接続長が数百メートルから千メートル近くに及ぶのに対し、島磁気面上の「ポロイダル」方向の距離は数十センチメートル、島磁気面を横切る半径方向の距離は数センチメートルにすぎない。したがって、ごく小さな定常的な対流型の垂直輸送(ドリフト流)でも、SOLの粒子・エネルギー収支に無視できない影響を与える。W7-X では複数の診断によって、島SOLを横断して非単調な温度・密度分布 や、シアを持つポロイダル流が観測されており、ドリフトと乱流が島ダイバータの運転に実質的に関与していることを示す。一方、現在の標準的な端部輸送モデルであるEMC3-Eireneはこうした対流ドリフトを含まず、島を横断するプラズマ分布を一貫して再現できないことが分かっている。
乱流の寄与も無視できない。島ダイバータのSOLではプラズマフィラメント(バルーン的な構造)が観測され、その統計的性質や、SOLの半径方向電場 ・乱流回転との相互作用がターゲット熱負荷 の分布に影響する。また、ターゲット影領域のようなトカマクには存在しない閉じた磁力線の領域(島のO点周辺で、すべての島磁気面がターゲットに交差しない場合に生じる)は、独自の輸送チャネルとして機能する。島ダイバータのSOL理解は、この意味で「軸対称ダイバータ の三次元版」ではなく、トポロジー的に新しい領域を含む問題である。
脱着と熱排気 脱着とは、端部プラズマの熱出力の大部分を低Z不純物 などによる体積輻射で散逸し、ターゲットへの粒子フラックスが大幅に減少した状態を指す。島ダイバータにとって脱着は熱排気の要であり、W7-AS では炭素不純物が島内の電力の大部分を輻射で除去し、輻射層を閉じ込め領域の外側に保ったまま貯蔵エネルギーの顕著な低下なしに運転できることが示された。ただしW7-ASでは完全な脱着は部分的にしか安定化できず、一部のターゲット領域は常に着火状態に留まり、より高い輻射レベルでは熱的不安定性が生じた。三次元輸送モデルはこの部分的脱着を再現し、内側側面に局在する輻射層(トカマクのMARFEを想起させる)を予測した。この局在は、W7-ASの磁気面が外側で圧縮・内側で膨張する上下非対称性に起因すると説明される。
W7-X では、平均トロイダル曲率の低減を図った最適化により磁気面の内外対称性がW7-ASより良く、シミュレーションも実験も、より均質な輻射分布とターゲット熱負荷 の均一な低減を示す。実際、W7-Xでは長時間の安定な完全脱着が達成され、島ダイバータ概念の実用性を裏付ける主要な成果となっている。また、X点 輻射の利用条件や、輻射出力とターゲット熱負荷の相関の定量化が進められている。不純物保持の観点では、ダイバータ 中の不純物密度を炉心不純物密度で割った圧縮比、および濃度比である濃縮度が指標となり、高い保持はSOL 輻射損失の増大とヘリウム 灰の排気、高Z不純物(タングステン など)に対する耐性の両方をもたらす。W7-Xの島ダイバータでは、垂直輸送と平行輸送の競合および不純物の電離位置の如何が不純物の漏れ出しを支配するという描像が、三次元シミュレーションによって整理されつつある。
実験の展開:W7-AS、W7-X、LHDとトカマクでの試験 島ダイバータの実験的検証は、W7-AS の運転最後の2年間(2002年停止前)に始まった。W7-ASは自励の低次島列を利用する装置であり、初の島ダイバータ実験で脱着状態への到達とその安定化に成功し、HDHモード と呼ばれる高閉じ込め状態の発見とも結びついて、概念の有望性を示した。W7-X は同じ原理をより大きな島(より低いポロイダルモード数)とさらに最適化された閉じ込め特性の下で受け継ぎ、新古典輸送 最適化と効率的な島ダイバータ運用の両立が実験的に確認された。現在はタングステンダイバータ への更新が進められており、三次元設計手法の見直しが並行して行われている。
LHD はシアが大きく自励の低次島を持たないため、外部磁場で生成したm/n = 1/1の島を用いる局所島ダイバータ(local island divertor, LID)を探索した。LIDではダイバータ ヘッドによって粒子再結合をトロイダルに局在化させることで高い排気効率を狙うもので、小型ヘリアカル装置での先行実験を経てLHDで実施され、ヘリカルダイバータ構成との比較のもとで周辺プラズマ の水素輻射やストライク点パターンへの新古典効果などが調べられた。さらにJ-TEXT トカマクでは、外部コイルで3/1や4/1の島ダイバータ構成を形成する試験が行われ、トカマク系の先進ダイバータ(スノーフレーク、スーパーXなど)がポロイダル磁束膨張で熱を広げるのに対し、島ダイバータは接続長の延長という別の経路で熱負荷 を低減できるかが検証されている。この構成では縁の磁気島 が「癒える」(島が消滅する)条件や不純物 輻射構造への影響も調べられており、島ダイバータがシュテラレータ固有の概念にとどまらず、より広い磁気閉じ込め系で評価される段階に入っている。
島ダイバータ(Island divertor)の研究史 — FusionPapers