モーション・シュタルク効果(Motional Stark effect、motional stark)は、核融合・プラズマ物理学の計測。中性ビーム入射によって励起された原子が運動電場E=v×Bによりシュタルク分裂したバルマーα線の偏光角度を測定し、磁場のピッチ角や電流分布を求める診断法である。トカマクやヘリカル装置のqプロファイル再構成に不可欠であり、偏光計や干渉計を用いて実現される。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは35本ある。比重が最も大きかったのは1995–1999年で、その期間の論文の0.16%を占めた。直近の2025–2029年では0.05%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1985年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
モーション・シュタルク効果(Motional Stark Effect, MSE)とは、中性粒子ビーム入射(NBI)加熱プラズマ中で、ビーム水素原子が磁場中を高速で飛行するときに受ける「運動による電場」E = v × B によって水素バルマー線(主にHα/Dα)がシュタルク分裂・偏光する現象、およびそれを利用して磁場方向(磁力線のピッチ角)を測るプラズマ診断法である。トカマク内部のポロイダル磁場分布、すなわち安全係数 q プロファイルや電流密度分布を直接測る標準的かつ主要な手法となっており、DIII-D、JT-60U、KSTAR、JET、W7-X など多くの装置に導入されている。ビーム原子の速度 v は既知であるため、観測される偏光方向からその点の磁場 B の方向が一意に定まり、これが本診断の基本原理である。
MSE 解釈上の最大の系統誤差源は、プラズマ自身が持つ半径方向電場 Er である。高閉じ込めモードでは Er が無視できず、観測される電場は真の運動電場 E = v × B に Er の寄与が重なったものになる。π と σ の偏光方向は合成電場の向きで決まるため、Er を無視して解析するとピッチ角に系統的なずれが生じ、平衡再構成を通じて q プロファイルそのものが歪む。DIII-D の高性能放電での解析は、この効果が無視できない規模に達することを示した。
これに対して、Er を誤差として捨てるのではなく測定量に組み込む方向の発展がある。π と σ 多重項の強度比は電場の大きさに依存するため、両成分を分光分解して強度比と偏光角を同時に解析すれば、q プロファイルと Er プロファイルを同時に求められる。JFT-2M や DIII-D ではこの目的のために多重チャネル化された系が構築され、ビームの各エネルギー成分が Er 測定感度にそれぞれ異なる寄与をすることも評価されている。一方、複数のイオン源を持つ NBI では、各源のビームが異なる視線・異なるエネルギー成分で寄食するため、その重ね合わせが偏光角の解釈に与える影響を系統的に評価する必要がある。
装置:光学系、偏光測定、校正
典型的な MSE 系は、ビーム発光を集光する光学ヘッド、π と σ を分離する干渉フィルターまたは分光器、そして偏光角を検出する偏光計からなる。偏光角の検出には、光弾性変調器(PEM)を用いて偏光を時間変調しロックイン検出する方式が広く用いられ、高感度・高精度が得られる。一方で PEM 方式は変調周波数に近接した周期的現象、例えばエッジ局在モード(ELM)の発生に敏感で、変調信号が乱されるため、高繰り返し ELM を伴う H モード放電では測定の信頼性への配慮が必要となる。これに対し、複数チャネルのアナログロックイン系を用いてリアルタイムで偏光角を求める方式や、波長一致を自動で行う系など、運転支援・フィードバック制御への応用を狙った実装も進んでいる。
Photo of polarisers and quarter waveplate installed onto the MSE head. The photo on the right was taken placing a polariser foil between the observer and the optical head, in order to highlight the polariser width. It is also possible to notice that the polariser does not cover the light cone of fibres belonging to different rows.