パワー排気(Power exhaust)は、核融合・プラズマ物理学の現象。核融合プラズマでは、核融合出力や加熱エネルギーをプラズマから排出する必要があり、そのプロセスを指す。主にダイバータへの熱・粒子負荷を制御し、放射冷却や不純物入射、磁場配位の変更などで扱われる。定常燃焼や実用炉実現の鍵となる現象。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは44本ある。比重が最も大きいのは直近の2025–2029年で、その期間に発表された論文の0.17%を占める。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1990年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
パワー排気とは、核融合炉のプラズマからエネルギーを取り出して壁やダイバータへ安全に逃がすこと、すなわち炉心で生じた巨大な熱出力を最終的に固体材料へ伝達する一連の物理過程とその制御を指す。トーラス型磁場閉じ込め装置では、磁力線が閉じた領域(炉心)と開いた領域(スクレイプオフ層)を分ける分離面の存在により、熱は必然的にダイバータの狭い領域に集中して流れ込む。このためパワー排気は、ITER や DEMO といった次世代装置の設計を左右する最重要課題の一つとされている。ダイバータのカセット内部構造と冷却配管の配置を示した図が、この主題の物理的な姿を具体的にイメージさせるであろう。

fig.9 Power exhaust concepts and divertor designs for Japanese and European DEMO fusion reactors (2021) · CC BY 4.0
Design of JA DEMO divertor (2020): (a) arrangement of the targets, baffles, reflectors, dome and cooling pipes in a cassette, (b) flow velocity, coolant temperature and pressure in the CuCrZr and F82H pipes for the heat sink units. Here, heat removal is evaluated with assuming both the inner and outer qtarget to be 10 MW m−2, which was larger than the simulation result in section 3.2. Recent design of EU DEMO divertor (2019): (c) cassette with target plates, neutron shielding liner and cooling manifold, (d) flow velocity, coolant temperature, pressure for targets and cassette body.
図は、日本と欧州の DEMO 設計で提案されているダイバータカセットの断面と、ターゲット板・バッフル・ドームを冷却する配管内の水流速・水温・圧力を描いたものである。炉心で生じた熱がどのような部材・経路を通じて最終的に冷却水へ運ばれるかを、設計図のレベルで示している。
パワー排気問題
核融合炉では、アルファ加熱を含む数百 MW から GW 級の熱出力がプラズマから連続的に放出される。この熱の一部は炉心内での放射によって失われるが、残りはスクレイプオフ層を通ってダイバータターゲットへ導かれる。問題は、磁化されたプラズマの熱伝導が磁力線方向に極端に異方的であることにある。磁力線に垂直な熱輸送は強く抑制されるため、熱は磁力線に沿って一方向に流れ、分離面と交差するターゲット上の狭い帯状の領域に集中する。装置のスケールが大きくなるほど流れの「幅」はさほど広がらず、熱負荷の集中は深刻化する。このため、分離面を通過するパワーを装置の主半径で割った P分離/R という指標が、現行装置から ITER・DEMO への外挿に用いられている。
さらに厄介なのは、定常運転を狙う炉では排熱総量そのものが ITER よりはるかに大きいことである。日本と欧州の DEMO 設計研究では、全加熱出力に対する全放射損失の割合を 0.8 以上、すなわち ITER で求められる 0.6〜0.7 より高い値にしなければならないとされており、それでもターゲットのピーク熱負荷は 10 MW m⁻² 級に抑えるという要求が課されている。この値は中性子照射下で長期にわたり耐えうる材料の限界近くにあり、物理(プラズマ側で熱を分散させる)と工学(材料側で熱を受け止める)の両面からの解決が不可欠である。
平行熱輸送とターゲット熱負荷
炉心から壁への熱の流れは、主として帯電粒子が磁力線に沿って運ぶ対流・伝導による。スクレイプオフ層に入ったプラズマは、ダイバータターゲットで中性原子として再結合して再び炉内に戻る「リサイクリング」を繰り返すが、この過程で中性子による電荷交換や放射も熱の輸送・損失に寄与する。ターゲットに到達する熱流束は、分離面近傍で指数関数的に減衰するプロファイルをなし、その減衰長がピーク熱負荷を決める。また、私的磁束領域(分離面の内側でターゲットに向かう領域)でもプロファイルの広がりが排熱に影響することが ASDEX Upgrade などで調べられている。
定常的な熱負荷に加えて、H モード運転で周期的に発生するエッジ局在モード(ELM)による過渡的な熱パルスも考慮しなければならない。ELM のたびにターゲットへ短時間に大量のエネルギーが投入されるため、ASDEX Upgrade では閉じ込め・安定性・パワー排気の三者を同時に最適化する運転開発が行われている。リチウムを壁面に蒸着させることで排熱の経路そのものが変化するかを調べた研究(NSTX)のように、壁との相互作用を通じて排熱を制御する試みも行われている。
放射散逸・不純物シード・ディタッチメント
ターゲット熱負荷を材料限界以下に下げる最も有力な手段は、プラズマ中に不純物を意図的に注入して、熱を放射光として体積的に散逸させることである。全金属第一壁を用いる炉では固有の放射損失が小さいため、低 Z から中 Z の不純物(窒素、ネオン、アルゴン、クリプトンなど)を種として注入する。窒素はダイバータ放射に適した特性を示し、炉心放射も同時に高めたい場合にはアルゴンが候補とされるが、炉心への不純物侵入は燃料希釈と閉じ込め性能の低下を招くため、注入量には厳しい制約がある。W7-X のアイランドダイバータでは、ネオンおよび窒素の注入により 80% に及ぶ放射損失でダイバータ熱負荷を全体に 2/3 に低減し、熱流束のディタッチメント(熱負荷の急激な低下)を初めて実証した。このとき貯蔵エネルギーの若干の低下という代償を伴うが、密度の低下はフィードバック制御による燃料補給で補償できることが示された。
ディタッチメントとは、ターゲット近傍のプラズマ温度が数 eV まで下がり、中性粒子との衝突・再結合によってイオンの流れと運動量が大幅に失われる状態をいう。この状態では、プラズマと分子(水素分子)との相互作用が決定的な役割を果たす。分子はプラズマからエネルギーを受け取って回転・振動励起され、イオンとの連鎖反応(分子活性再結合 MAR、分子活性解離 MAD)を通じて電力・運動量・イオンを系から除去する。MAST-U や TCV での分光測定では、ディタッチメントの進行に伴って分子の回転温度が上昇し、プラズマから分子へのエネルギー移転が強まることが示された。この分子衝突による損失は、スクレイプオフ層に入力されるパワーの 10% 以上、イオン化フロントより下流では 40% 以上に達しうる。ディタッチメントフロントの位置は、水素分子のフルヒャー帯発光(波長約 600〜640 nm の可視光)で診断でき、これを制御の指標とする研究が進んでいる。
磁気ダイバータ構成
熱負荷を下げるもう一つの方向は、磁場の形そのものを工夫して熱を分散させることである。標準的な単一 X 点(シングルヌル)構成では、X 点からターゲットまでの磁力線の接続長が短く、熱が集中しやすい。これに対して、二次の X 点を追加したスノーフレーク構成では、低い極向き磁場の領域が広がり、ストライクポイントが複数に分かれることで熱が分散される。TCV ではバッフルを備えたスノーフレーク構成で、単一 X 点構成に比べて外側ターゲットのピーク熱負荷が低減され、二つのストライクポイントへの配分を制御できることが示された。また窒素注入との組み合わせにより、二つの X 点の間に強い放射領域が形成され、炉心から離れた位置に放射を局在できることが明らかになった。
MAST-U では、X 点を装置の外側へ遠ざけて長いダイバータ脚を作る Super-X 構成や、その中間的な細長い構成が採用されている。接続長を長くすると磁力線に沿った体積が増え、放射や電荷交換による散逸が増大するとともに、ターゲットでの熱流束の幾何学的な希釈が得られる。実際、外側脚の長さを変えた実験と乱流シミュレーションの比較により、脚の長さがディタッチメントの挙動と排熱を制御すること、また E×B ドリフトが先進的スロットダイバータのプラズマ冷却を支配しうることが示されている。さらに、X 点近傍に放射を集中させる X 点ラジエータは、複数の X 点を持つ構成でも制御可能であることが TCV で確認された。
ダイバータターゲット工学と炉設計
物理的に熱を分散させても、最終的にはターゲット材料が熱を受け止めなければならない。現行の最有力候補は、タングステン製の小片(モノブロック)に CuCrZr 合金の冷却管を貫通させた構造で、水冷によって 10 MW m⁻² 級の熱負荷を連続的に除去する。日本の DEMO 設計では、タングステン表面温度を約 1020 ℃、CuCrZr 管を約 330 ℃に抑えながら、配管の大部分で 16 MW m⁻² の熱流束を処理できることが熱流動解析で示された。中性子照射による材料損傷(年間 0.5〜1.5 dpa)も考慮し、構造材には低活性フェライト鋼 F82H を組み合わせる。冷却水は約 200 ℃・4 MPa から 290 ℃・15 MPa までの条件で供給され、カセット本体やバッフルの冷却系と統合的に配管が設計されている。
炉全体の設計では、パワー排気の要求がプラズマ性能と直接トレードオフする。日本の DEMO が核融合出力を 3 GW から 1.5 GW 級に引き下げ、主半径を 5.5 m から 8.5 m に拡大したのは、ダイバータ設計に十分な余裕を与えるためである。欧州の DEMO は 2 GW 級の出力で 500 MW の正味電力を目指し、水冷熱流動条件の選定を含めてダイバータの運転点が決められている。中国の CFETR では GW 級出力でのネオン注入を伴うシミュレーションが、イタリアの DTT ではダイバータ専門の試験装置としての役割が掲げられている。いずれの設計でも、放射による散逸とターゲット工学の両輪でパワー排気を実現するという共通の戦略が採られており、その実証が次世代装置の共通課題となっている。
この解説が根拠にした論文から
- Studies of power exhaust and divertor design for a 1.5 GW-level fusion power DEMONuclear Fusion 2017
- First demonstration of radiative power exhaust with impurity seeding in the island divertor at Wendelstein 7-XNuclear Fusion 2019
- Power exhaust concepts and divertor designs for Japanese and European DEMO fusion reactorsNuclear Fusion 2021
- The physics of power exhaust from toroidal magnetoplasmasPlasma Physics and Controlled Fusion 1992
- Impurity seeding for tokamak power exhaust: from present devices via ITER to DEMOPlasma Physics and Controlled Fusion 2013
- Power exhaust and core-divertor compatibility of the baffled snowflake divertor in TCVPlasma Physics and Controlled Fusion 2023
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推移
研究の変遷
1985–19942本 · 0.04%
磁化プラズマにおけるパワー排気の基礎
この時代の論文は、トロイダル磁化プラズマからのパワー排気の基礎物理を扱っている。具体的には、プラズマ粒子と熱の排出機構が考察され、Magnetized plasmaという概念とともに論じられた。
同時に語られた主題磁化プラズマ
この時代の論文から
- Particle and power exhaust for a fusion plasmaNuclear Fusion 1990
- The physics of power exhaust from toroidal magnetoplasmasPlasma Physics and Controlled Fusion 1992
1995–20043本 · 0.03%
放射パワー排気とITERへの応用
この時期の研究は、不純物シーディングによる放射パワー排気解をITER向けに検討するものであり、Impurity、H-mode、Edge localized mode、ELMy H-modeといった概念と結びついている。また、ASDEX UpgradeにおけるELMy H-modeの最適化も扱われ、実験とモデリングが並行した。
同時に語られた主題不純物、Hモード、ELMy Hモード、周辺局在モード
この時代の論文から
- Impurity seeded radiative power exhaust solutions for ITERNuclear Fusion 1996
- Robustness of radiative mantle plasma power exhaust solutions for ITERNuclear Fusion 1997
- Optimization of confinement,stability and power exhaust of the ELMy H-mode in ASDEX UpgradePlasma Physics and Controlled Fusion 2001
2005–20148本 · 0.05%
ELMとダイバータ形状の多様化
この時代には、JETでのELM平均パワー排気、NSTX-Uでのリチウム堆積効果、ASDEX Upgradeでの二重放射フィードバックなど、多様な装置でパワー排気が研究された。不純物、ELM、リチウム、不純物シーディングというトピックと並行して議論が進み、ITERを想定した炭素・モリブデン標的板の放射パワー排気モデリングも行われた。
同時に語られた主題不純物、周辺局在モード、リチウム、不純物シーディング、Hモード
この時代の論文から
- Optimized tokamak power exhaust with double radiative feedback in ASDEX UpgradeNuclear Fusion 2012
- ELM-averaged power exhaust on JETNuclear Fusion 2005
- Power exhaust in the snowflake divertor for L- and H-mode TCV tokamak plasmasNuclear Fusion 2014
- The effects of increasing lithium deposition on the power exhaust channel in NSTXNuclear Fusion 2014
2015–202631本 · 0.12%
DEMOと先進ダイバータへの展開
この時代はパワー排気研究がDEMO炉設計やDTT計画へと拡大し、ITERに加えてWendelstein 7-X、JET、EAST、DIII-Dなどで実験が進められた。Negative triangularity、X-point、SOLPS-ITERといった概念と関連づけられ、アイランドダイバータにおける不純物シーディングや、E×Bドリフトの影響など、先進的な排気概念が探求された。
同時に語られた主題三角形度、負三角形度、不純物、周辺局在モード、X点、熱水力
この時代の論文から
- Studies of power exhaust and divertor design for a 1.5 GW-level fusion power DEMONuclear Fusion 2017
- DTT: a divertor tokamak test facility for the study of the power exhaust issues in view of DEMONuclear Fusion 2017
- First demonstration of radiative power exhaust with impurity seeding in the island divertor at Wendelstein 7-XNuclear Fusion 2019
- Power exhaust concepts and divertor designs for Japanese and European DEMO fusion reactorsNuclear Fusion 2021
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文33本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、7本の論文(うち全文3本)と1枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
