Wiki / 装置 DTT は、核融合・プラズマ物理学の装置。核融合炉DEMOの実現に向け、イタリアで建設中の超伝導トカマク実験装置である。ダイバータの熱負荷制御問題を使命とし、従来型ダイバータに加え液体金属ターゲットや先進磁気配位など多様な排熱方式を試験できるよう設計されている。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは126本ある。比重が最も大きいのは直近の2025–2029年で、その期間に発表された論文の0.86%を占める。この用語集がこの主題を最初に拾うのは2015年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
目次
1 解説 2 推移 3 研究の変遷 4 よく登場する装置 5 この数字の作り方 解説 DTT(Divertor Tokamak Test facility、ダイバータ トカマク試験施設)は、核融合炉の実現に向けた最大の未解決課題の一つであるプラズマからの熱排出(パワー排出)問題を、炉に近い条件で系統的に研究するために建設中の超電導トカマクである。イタリアのフラスカティに建設され、ITER と並行して、あるいはITERでは試験できない代替ダイバータ概念の実証を担うことを目的としている。
ミッション:DEMO指向のパワー排出試験装置
商用炉DEMO では、プラズマ中の融合反応で生じるエネルギーの大部分が、最終的には磁力線に沿ってダイバータ の狭い領域に集中して流入する。この熱流をいかにして壁材の許容限界(目安として10 MW/m²程度)以下にまで減らすかは、DEMOの設計を左右する死活的な問題である。ITER では不純物 注入によるダイバータのデタッチ(プラズマと壁の熱的切断)で対処する路線が取られているが、それが唯一の解である保証はなく、DEMOに直結する条件で代替案を試験できる装置が求められた。
DTTの設計思想は、プラズマの無次元パラメータやプラズマ縁の条件をDEMOにできるだけ近づけつつ、装置規模は実現可能な範囲に抑えることにある。その鍵となる指標が単位主半径あたりの加熱出力 P/R₀ であり、DTTは最大約45 MWの加熱出力と R₀ ≈ 2.2 m を組み合わせることで、ITERやDEMOと同程度の P/R₀ を実現できる。これは、ダイバータに流入する熱負荷 を炉相当のレベルで試験できることを意味する。さらに高密度・低衝突性という現在のトカマクでは未踏の運転領域に位置するため、パワー排出に限らず、ELM 抑制、ペレット入射 、高速粒子の影響、ディスラプション対策、プラズマ制御 といった炉関連課題全般の統合的研究にも寄与する位置づけにある。パルス長は100秒を超え、定常に近いHモード 平坦部を数十秒維持できることが要求されている。
DTT
種別 装置
論文数 126 本
初出 2015 –2019 年(24本)
最盛期 2025 –2029 年 0.86% 索引にもどる
図はDTTダイバータ部の詳細モデルを複数方向から見たものであり、内側・外側の垂直ターゲット、ターゲット裏面、冷却パイプ、真空容器 、磁場コイル、ポンプ開口部など、パワー排出を担うダイバータモジュールの構成要素が確認できる。
機械設計と主要諸元
DTTはD型断面を持つ超電導トカマクで、主要諸元は主半径 R₀ = 2.19 m、小半径 a = 0.70 m(アスペクト比約3.1)、最大トロイダル磁場 5.85 T、最大プラズマ電流 5.5 MA である。断面の縦横比(伸長率)は1.6〜1.8程度に設計されている。トカマクコイル、中心ソレノイド 、ポロイダル磁場コイルはすべて超電導であり、中心ソレノイドは35 V·s を超えるフラックススイングを供給し、長パルス運転を可能にする。真空容器 は垂直変位 イベント(VDE)時の電磁力に対する構造評価を含む最終設計が進められており、プラズマ対向壁はタングステン で覆われる。
運転は段階的に進む計画である。まず2029年頃を予定する第1段階では、トロイダル磁場3 T、プラズマ電流2 MA、ECRH 8 MWで初プラズマを迎え、その後16 MWのECRH とNBI 4 MWを加えた中間段階(4 MA、5.85 T)を経て、最終的に全磁場・全電流・全加熱出力(ECRH 32 MW、NBI 10 MW、ICRH 8 MW)での運転を目指す。半磁場・半電流で全加熱出力を注入するシナリオも含まれており、炉規模の規格化ベータ値に到達できるかの評価が行われている。長パルス運転の実現可能性は中心ソレノイドのフラックス消費に依存するため、立ち上げ期からHモード 移行後までのプラズマプロファイル発展を統合輸送計算で予測する取り組みが進んでいる。特にタングステン壁では、壁面温度を低く保ってスパッタリングを抑える必要があり、これが立ち上げ期のプラズマ温度・抵抗率の制約と相反する点が設計上の検討課題となっている。
追加加熱と電流駆動システム
DTTの加熱・電流駆動 は三系統、すなわち電子サイクロトロン加熱 (ECRH)、イオンサイクロトロン共鳴 加熱(ICRH )、負イオン 中性粒子ビーム入射(NBI )で構成され、合計でプラズマに約45 MWを注入する。このうちECRHは最終的に29 MW程度の結合出力を持つ予定で、既存トカマクの中でもITER に次ぐ規模の電子加熱 能力である。電子加熱の割合が高いことは、デタッチ制御や縁プラズマの制御に局所加熱という自由度を与える点で、DTTの使命に合致している。
ECRHシステムは170 GHz・1 MW級ジャイロトロン を最大32基同時運転する構想で、モジュール化された真空準光学伝送路と各ビーム独立のフロントステアリング型発射鏡を備える。発射鏡は高熱負荷 に耐える熱機械設計に加え、強磁場環境での動作が求められ、磁場が鏡の駆動機構や誘電体部材に与える影響の評価、マイクロ波偏波制御用のポラライザ設計などが進められている。ECRHの役割は単なる主加熱にとどまらず、プラズマ電流立ち上げ・立ち下げの支援、MHD 不安定化の制御、高密度プラズマでの伝播特性を考慮したバルク加熱など、制御アクチュエータとしての多面的な利用を想定している。
ECRHシステムの全体配置とジャイロトロン実証機を示す。
fig.1 Roles of ECH system in DTT plasma operations (2024) · CC BY 4.0
Left: Layout of the DTT-ECH system in the full configuration and overview of the ECH building connected to the Tokamak Hall; Right: DTT Gyrotron pre-series at Falcon Test Facility for FAT (THALES property and confidential information, not to be disclosed).
図の左はトカマクホールに接続されたECRH棟の全体配置で、多数のジャイロトロンと伝送路がモジュール状に並ぶ様子が分かり、右は試験施設に設置されたジャイロトロン前シリーズ実機である。
NBIは510 keV級の負イオン源 を用い、最大10 MWを接線方向に入射する。負イオン方式はITERと共通する技術であり、電源 システムの設計も含めて開発が進められている。ICRHは最大6〜8 MWを供給し、高磁場側アンテナを用いたプラズマ位置 制御用反射計システムなど、周辺システムの設計も並行して進んでいる。
ダイバータとパワー排出の解決策
DTTのダイバータ は、ITER と同様のタングステン モノブロックを能動冷却する構成で、定常熱流束20 MW/m²まで耐えられる設計である。運転の基本は部分デタッチ状態であり、これはコアプラズマ性能とダイバータ熱負荷 の妥協点とされるが、設計上の最悪条件は付着状態のダイバータである。この条件では、磁力線にほぼ垂直に立つ露出面(モノブロック間の半径方向ずれなどで生じうる)が容易に融点に達しうるため、DTTではITERと同様にモノブロックをトロイダル方向に傾斜・面取りする形状対策が採られている。このようなトロイダル形状の効果は軸対称を仮定する流体コードでは扱えないため、粒子内挿(PIC )法による完全運動論的シミュレーションで、デバイシース、磁気プレシース、壁からの中性粒子再循環、二次電子放出、熱電子放出、イオンスパッタリングなどを含めたプラズマ・壁相互作用 の評価が行われている。
粒子排出系の設計も重要な要素である。サブダイバータ領域の中性ガス流れはボルツマン方程式に従い、その解法として直接シミュレーションモンテカルロ(DSMC)法を用いた三次元解析が実施されている。これらの解析は、ポンプ開口の位置と寸法の決定、ポンプ速度やトロイダル・ポロイダル方向のリークが排気性能に与える影響の評価に用いられ、プラズマ流 体コードとの間で境界条件を整合させた統合的なモデル化が進められている。ダイバータモジュールの水力解析や熱遮蔽板の熱解析など、熱・流体工学的な設計検証も並行して行われている。
PICシミュレーションで扱われる磁気配置とターゲット近傍の幾何を示す。
fig.1 Kinetic modeling of the plasma–wall interaction in the DTT divertor region (2024) · CC BY 4.0
(a) Poloidal view of the DTT first wall and vessel outer wall, showing the considered SND magnetic configuration and the SOLEDGE2D simulation domain (light blue region). The location of the deuterium puffing point and of the pumps entrance is also shown by respectively a red dot and thick blue lines. Zooms on the critical (b) OVT and (c) IVT points considered in PIC simulations, where the local DESPICCO simulation axes x,y,z are shown in blue, and the magnetic field direction in the poloidal plane by a red arrow (the dominant component is perpendicular to the page, along the toroidal y direction). White arrows indicate the wall normal direction.
図は単一ヌル配置におけるDTT第一壁 とシミュレーション領域のポロイダル断面(左)と、外側・内側垂直ターゲットの臨界点近傍の拡大図(右)であり、磁場方向、壁面法線方向、水素パフとポンプの位置が示されている。
代替磁気配置と運転シナリオ
DTTの磁気システムは、標準的な単一ヌル配置に加えて、多様な代替ダイバータ 配置を実現できるよう設計されている。具体的には、ダブルヌル、スノーフレークおよび準スノーフレーク、Xダイバータ、スーパーXなど、磁力線の広がり方やストライクポイントの分散の仕方が異なる一連の配置である。これらはいずれも、ターゲットに流入する熱流を磁場の膨張や再結合によって「薄く広げる」ことで熱負荷 を低減する発想に基づく。容器内の赤道面コイルや、ストライクポイントの掃引(スウィーピング)とスクレイプオフ層 幅の制御を目的とした内部コイルが計画されており、これらのコイル電源 のエネルギー最適化も設計課題となっている。軸対称平衡におけるプラズマ回転 の影響を含めた平衡計算や、代替配置に対する磁気制御系の設計も進められている。
特別な位置を占めるのが負三角率配置である。断面のD字の凸側を高磁場側に向けるこの形状では、Hモード に移行せずLモード のまま高閉じ込め性能が得られる可能性があり、ELM というダイバータへの突発的熱負荷源を原理的に回避できる。TCV やDIII-D 、ASDEX Upgrade での実験とジャイロ運動論 的シミュレーションにより、負三角率が電子熱輸送 を抑制する効果が示されており、DTTでも単一ヌル負三角率配置がELMフリー 運転の候補として検討されている。ASDEX UpgradeではDTTで実現可能な断面形状を模した負三角率放電が実施され、DTTの平衡と比較する形で検証が進んでいる。
正三角率と負三角率の断面形状の比較を示す。
図はASDEX Upgradeで実現された正・負三角率プラズマのポロイダル断面とDTTで想定される形状の比較(左)および安全係数 qの半径方向分布(右)であり、両装置で類似の形状・配位が得られることが示されている。
このようにDTTは、単一の標準シナリオの実証装置ではなく、デタッチ制御を含む従来型タングステンダイバータ から液体金属 ダイバータ、そして多様な磁気配置に至るまでのパワー排出ソリューション群を、炉に近い無次元条件・熱負荷条件の下で比較試験できることを最大の特徴とする。その成果はITER の運転プログラムを補完すると同時に、DEMO のダイバータ設計に直接資することを目指している。
DTTの研究史 — FusionPapers