Wiki / 装置 ウェスト (WEST、WEST tokamak)は、核融合・プラズマ物理学の装置。フランスCEAの超伝導トカマクであり、Tore Supra を改造して建設された。全タングステン製のプラズマ対向壁とアクティブ冷却式ダイバータを持ち、ITER向けタングステン・モノブロックの実機試験と定常長パルス運転を主目的とする。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは167本ある。比重が最も大きいのは直近の2025–2029年で、その期間に発表された論文の0.82%を占める。この用語集がこの主題を最初に拾うのは2010年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
目次
1 解説 2 推移 3 研究の変遷 4 よく登場する装置 5 この数字の作り方 解説 WEST(タングステン (Tungsten)環境(Environment)定常状態 トカマク(Steady-state Tokamak))は、フランスのカダラッシュ研究所において既存のトカマク「トール・シュプラ (Tore Supra)」を改造して建設された超伝導トカマク装置である。プラズマ対向壁のすべてをタングステンとし、かつそれらを能動冷却することで、長パルス・定常状態のプラズマ運転を金属環境下で実現することを主目的とする。主要なパラメータは、プラズマ電流0.5–1 MA、トロイダル磁場3.7 T、プラズマ大半径2.5 m、小半径0.5 mであり、1000 sに及ぶ長パルス運転を想定して設計されている。図に装置の内部構造と主要パラメータを示す。
fig.ig01 WEST Physics Basis (2015) · CC BY 4.0
CAD views of WEST and a table summarizing the WEST main parameters.
図は装置の断面模型と、プラズマ電流・磁場・加熱入力などの主要パラメータ一覧を並べたものである。上下非対称なダイバータ 配置や、後述するタングステンコーティング部材の配置も確認できる。
装置の概要と目的
WESTは、もともとトール・シュプラ として長年運転されてきた装置を基礎とし、超伝導コイルとタングステン 対向壁を備えた新たな研究プラットフォームとして生まれ変わったものである。トール・シュプラはカーボン製の対向壁を持ちながら長パルス運転で実績を積んできたが、次世代装置であるITER やDEMO が想定するのは金属(タングステン)壁環境下での定常運転であり、その統合的な物理・技術課題を扱える装置が不足していた。そこでWESTでは、既存の と を活かしつつ、ポロイダル磁場コイルや コイルを新たに追加し、対向壁を全面的にタングステン系材料へと更新した。
ウェスト
種別 装置
論文数 167 本
初出 2010 –2014 年(11本)
最盛期 2025 –2029 年 0.82%
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装置の規模はMA級トカマクに分類され、プラズマ電流は最大1 MA、トロイダル磁場は3.7 Tである。プラズマ体積は約15 m³であり、アスペクト比は5–6と比較的大きい。この規模はITERの約3分の1程度に相当し、ITERで想定されるプラズマ条件や壁負荷を、より小型で安価な装置で再現・検証するのに適している。中国、欧州、インド、韓国、米国などの国際パートナーとともに建設が進められ、ITERの運転準備とDEMOの概念設計活動の両方を支援する役割を担う。
研究計画は大きく二つの柱で構成される。第一に「ITER級プラズマ対向部材の試験」であり、ITERと同一の技術で作られたタングステンダイバータ 部材を実際のトカマク環境に置いてその性能と寿命を評価する。第二に「長パルスHモード および定常状態 運転への道」であり、金属壁環境下で高拘束プラズマを長時間維持するためのシナリオ開発と制御技術の確立である。このため、標準シナリオとして中出力(12 MW・約60 s)、高粒子フラックス用(10 MW・1000 s)、高出力(15 MW・30 s)の三系統が想定されている。
ITER級タングステンダイバータとプラズマ対向部材 WESTの最大の特徴は、ITER と同じ製造技術・形状・熱水力 条件を持つタングステンダイバータ を備えている点にある。ITERのダイバータ は、冷却管にタングステン 製の「モノブロック」を貫通させたプラズマ対向ユニット(PFU)を基本単位とする。WESTの第2期運転構成では、下部ダイバータが456本のPFUで構成され、各PFUは35個のタングステンモノブロックを含む。全体で15960個のモノブロックが用いられており、これはITERダイバータ垂直ターゲットに予定されているモノブロック総数の約10%に相当する。各PFUはITERの垂直ターゲットの直線部の3分の1の長さを再現し、トロイダル方向のベベル(斜め面)形状や熱水力条件もITERと共通とされている。図に第2期構成における装置内部の様子を示す。
図は下部ダイバータにITER級PFUが全面装着された第2期構成の真空容器 内を写したもので、中央のリング状ダイバータと、内側・外側バンパーに貼られた窒化ホウ素製タイルが見て取れる。
このダイバータの製造は中国の材料メーカーが担当し、ITER級PFUとしては初めての大規模な工業生産となった。量産過程で判明した不適合品への対応や受入検査の最適化は、ITERダイバータ量産そのものへの貴重なフィードバックとなった。ダイバータの設計・製造・組立には、埋め込み熱計測による熱流束評価なども組み込まれている。
第1期運転(2017–2020年)では、下部ダイバータは一部が能動冷却されておらず、ITER級モノブロック試作部材を一部セクターに設置し、残りは慣性冷却のタングステンコーティング部材で構成していた。上部ダイバータはこの時点で既に能動冷却されていたが、ITERダイバータ技術とは別の方式であった。第2期(2021年以降、実質運転は2022年末から)に至り、下部ダイバータが全面ITER級の能動冷却PFUへと更新され、装置全体が完全な能動冷却タングステン環境となった。
ダイバータの磁気配置は柔軟性が高く、下部単一極(LSN)、上部単一極(USN)、ダブルヌル(DN)の各構成を選択できる。図に同一パルス内での三つのダイバータ構成の例を示す。
図は一つの放電において下部単一極、ダブルヌル、上部単一極へと磁気平衡を切り替えた際の可視光画像と再構成された磁気面を並べたもので、上下対称なコイル配置がもたらす運転の柔軟性を示している。この柔軟性は、熱負荷 の分散やダイバータプラズマ の制御研究に活用されている。
長パルス定常運転:加熱・燃料供給・制御
WESTは長パルス運転を支えるために、高周波加熱を主たる加熱・電流駆動 手段としている。イオンサイクロトロン共鳴 加熱(ICRH )が最大9 MW、下側ハイブリッド電流駆動(LHCD )が最大7 MW、電子サイクロトロン共鳴 加熱(ECRH )が0.6 MWの入力を持ち、いずれも連続波運転が可能である。中性粒子入射 (NBI)を持たないこの構成は、定常運転に必要な電流分布 制御を高周波加熱に依存することを意味し、同時に、波とプラズマ・壁の相互作用が装置運転を左右する環境を作り出している。燃料供給 はガスパフ 、ペレット入射 、そしてパルス長に見合う長時間の排気能力を組み合わせた多様なシステムで支えられている。
長パルス運転では、プラズマからの熱流束と粒子フラックスを能動冷却された対向壁が連続的に受け止めるため、壁部材の温度をリアルタイムに計測し、それに基づく機器保護のフィードバック制御が不可欠となる。このため、プラズマ制御 システムは新たに構築され、設計からシミュレーション検証までを一貫して行う体制が整えられた。壁部材温度に基づくリアルタイム制御は、定常的なタングステン 環境下での機器保護に向けた運転手法として開発・実装されている。
熱排気の観点では、ITER やDEMO の対向壁が直面する負荷、すなわち10–20 MW/m²の熱流束、1パルスあたりギガジュール級のエネルギー、10²⁷ D/m²オーダーの粒子フルエンスを、実際のトカマク環境で再現・評価できることがWESTの中心的な役割である。単一放電で注入されるエネルギーは第2期の運転で既に約300 MJに達し、キャンペーン全体では累計43 GJ、累計プラズマ時間5時間を超える規模に達している。
タングステンプラズマ・壁相互作用と部材寿命
全タングステン 環境での運転は、タングステン原子のプラズマ中への侵入がプラズマ性能を直接損なうという固有の課題をもたらす。タングステンは高Z元素であり、わずかな不純物 侵入でも輻射損失が大きく、プラズマ中心の輻射崩壊につながり得る。このため、タングステン源の定量化と輸送の理解が中心的な研究課題となる。可視分光計測によるタングステン源評価や、数値モデリングを用いた放電全体でのタングステン移行の大域解析が進められている。
不純物源の一つとして特に重要なのが、ICRH アンテナ構造物における高周波誘起のエロージョンである。高周波波はアンテナ近傍の材料表面でプラズマシース を整流し、数百ボルトに達しうる高周波電位を生む。この電位が燃料イオンや軽不純物イオンをアンテナ表面へ加速することでスパッタリングが促進され、さらにスパッタされたタングステン自身が表面に戻って再びエロージョンを引き起こす自己スパッタリングの連鎖も問題となる。このようにして生じた不純物はスクレイプオフ層 を経てプラズマ中心へ輸送され、特に高拘束運転では中心への滞留が性能低下を招く。この過程を統合的にモデル化する枠組みが構築され、実際のLモード 放電での分光データと比較検証が行われている。図にICRHアンテナ周辺の対向部材と分光計測の視線を示す。
fig.2 Integrated modeling of RF-induced tungsten erosion at ICRH antenna structures in the WEST tokamak (2025) · CC BY 4.0
View of the WEST inner vessel showing a magnetic field line (blue dashed) connecting the upper Pecker probe on the Antenna Protection Limiter (APL) to the upper left corner of the Q2 ICRF antenna. The image highlights the visible spectrometer’s lines of sight (red dashed) embedded in the high-field side wall, focusing on the Q2 ICRF antenna limiters. Also visible are the baffle and the divertor, which consists primarily of W-coated graphite tiles, with 12 tiles featuring ITER-like W monoblocks.
図は真空容器 内の様子を示し、アンテナ保護リミッター 上のプローブとQ2アンテナを結ぶ磁力線、高磁場側壁に埋め込まれた可視分光計の視線、そしてタングステンコーティンググラファイト製ダイバータ と一部のITER 級モノブロックが確認できる。
部材寿命の観点では、実際の運転を経たタングステン部材の状態評価が重要な知見を与えている。第1期の4キャンペーンを経た原位置観察では、タングステンコーティング部材は3年間の運転後も概ね良好な状態に保たれていた一方、ランナウェイ電子やアーキングといった通常運転範囲を外れた事象が支配的な領域では剥離が生じやすいことが示された。このため外側リミッターのカーボン基板タングステンコーティングタイルは、キャンペーン途中でバルクタングステンタイルへと交換された。一方、バルクタングステンのITER級部材では、平行熱流束に曝されるモノブロック端部を中心に溶融や亀裂が観察された。注目すべきは、あるキャンペーンで生じた損傷が次のキャンペーンでも進行しなかったことで、これらの損傷が定常加熱の蓄積ではなく個別の突発事象に起因すると考えられている。
損傷がその後のプラズマ曝露でどう変化するかを調べるため、意図的に熱衝撃損傷を与えた(事前損傷を付与した)PFUを装置に設置して運転する実験も行われている。これは、高拘束運転で生じるエッジ局在モード(ELM )のような繰り返し過渡熱負荷 が部材に与える影響を模擬するものであり、損傷の程度や位置の異なる複数のPFUが複数キャンペーンにわたって曝露された。損傷部と非損傷部の表面粗さや形態の変化、および可視分光で測定されるタングステン源への影響が評価の対象となっている。
第1期・第2期運転の成果と展望
第1期運転(2017–2020年)は、タングステン コーティング部材とITER 級モノブロック試作部材を併用した構成で4つの実験キャンペーンを実施し、運転領域の確立、長パルスに向けたシナリオ開発、プラズマ・壁相互作用 研究、ITER級部材の初実証という成果を挙げた。この期間の知見は、能動冷却金属壁トカマクの運転全体像を初めて体系的に示したものとなっている。Lモード データベースの整備による分離特性とコア性能の整理、乱流シミュレーションによるフィラメントの三次元構造解析、コア輻射崩壊の特性評価と統合モデリング、始動からランプダウンまでの全放電のコア・エッジ二次元流体モデルなど、運転と解析の両面で基盤が築かれた。
第2期運転は2022年12月に始まり、2023年のキャンペーンでは急速な長パルス化が進み、100 s級のパルス長と1放電あたり約300 MJの注入エネルギーが実現した。その後の進展により、1337 s(約22分)に及ぶプラズマ維持が達成されている。これは、能動冷却タングステン環境下での定常運転が技術的に成立することを示す実証であり、装置に硬いパルス長の上限がないという設計思想を裏付ける結果でもある。
WESTの成果はITERのタングステンダイバータ 調達・運転の準備に直結するとともに、DEMO の概念設計における材料・運転シナリオの検討を支える。全タングステン対向壁、能動冷却、連続波高周波加熱、長時間運転という要素の統合は、次世代融合炉に共通する課題の縮図であり、プラズマ制御 ・壁保護・不純物 管理を一体として扱う経験の蓄積が、今後の運転研究の中核であり続けると期待される。
ウェスト(WEST)の研究史 — FusionPapers