Wiki / 現象 電流ランプアップ (Current ramp-up)は、核融合・プラズマ物理学の現象。トカマクの放電初期にプラズマ電流を目標値まで増加させる過渡過程であり、中心ソレノイドの磁束消費が制約となる。これを低減・非誘導化するため、LH波やEC波、中性粒子ビームによる電流駆動が利用され、電流分布やMHD安定性、立ち上げ時間の設計に深く関わる。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは38本ある。比重が最も大きかったのは2015–2019年で、その期間の論文の0.12%を占めた。直近の2025–2029年では0.09%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1985年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
目次
1 解説 2 推移 3 研究の変遷 4 よく登場する装置 5 関連項目 6 この数字の作り方 解説 電流ランプアップ(current ramp-up)とは、トカマクプラズマの環方向プラズマ電流を放電開始直後のほぼ零の値から、フラットトップ(flat top)と呼ばれる定常運転電流まで立ち上げる過程である。トカマクはプラズマ電流そのものが閉じた磁気面を形成する「柱」を支えているため、電流をどのように、どの速さで、どのプロファイルで立ち上げるかは、単なる立ち上げ作業ではなく、その後の放電全体の性能と安全性を決める重要な運転段階となる。この段階で消費されるポロイダル磁束(Vs)は炉の経済性に直結し、立ち上げ中に生じる磁気せん断分布の履歴はMHD不安定性 や輸送の挙動を通じて定常状態 にまで影響を及ぼす。
fig.4 Current ramp-up studies for NSTX-U in support of the development of non-inductive current ramp-up scenarios in STs (2026) · CC BY 4.0
Shown are simulations with three programmed plasma current ramp rates that use the experimental density profiles and modified neutral beam injection parameters. Shown from top to bottom are the resulting TRANSP calculated current in the central solenoid, plasma current drive components from induction, neutral beams, and bootstrap driven current, and the modified neutral beam power waveform. Table 1 lists the programmed values for neutral beam energy, power, and injection timing data. The dashed horizontal lines in the frame showing the solenoid current indicate the current remaining in the solenoid at the end of the current ramp.
図は、異なるプログラム電流ランプ速度を与えたシミュレーションで、上から順に中央ソレノイド電流、誘導・中性粒子ビーム・ブートストラップ各駆動電流成分、および中性粒子ビーム入力波形の時間発展を示す。誘導駆動分が初期に急減してビーム駆動とブートストラップ駆動がそれを引き継ぐ様子、すなわち「誘導で始め、非誘導で増強する」ランプアップの典型的な姿が読み取れる。
電流ランプアップ
種別 現象
論文数 38 本
初出 1985 –1989 年(1本)
最盛期 2015 –2019 年 0.12%
直近 2025 –2029 年 0.09% 索引にもどる
トカマク放電における位置づけ トカマクの1回の放電は、大まかに(1)プラズマ生成 と電流立ち上げ、(2)電流フラットトップでの加熱・運転、(3)電流ランプダウン、の三段階に分けられる。このうちランプアップは、プラズマのサイズが成長しつつ電流が増える過渡期であり、安全係数 qの分布、プラズマインダクタンス、密度・温度プロファイルがすべて同時に変化する。 ステラレータ (stellarator)では不要な工程であるこの電流立ち上げこそが、トカマク炉に特有の課題の一つである。
ランプアップの設計を支配する基本的な量は、プラズマの抵抗拡散時間である。電流はプラズマの表面から内部へとオーム拡散的に浸透していくが、炉級装置(例えばITER を想定し電子温度7 keV、Z=2として)ではこの時間尺度は千秒を超えると見積もられる。一方で、実際の大装置ではこれよりはるかに短い時間で電流を立ち上げている。この矛盾は、プラズマが単純な円柱ではなく、加熱による温度上昇、電流密度分布 の変化、そして非誘導電流駆動 の寄与によって、拡散時間の見積もりそのものが時間とともに変わるためである。つまりランプアップ時間は「装置に固定された量」ではなく、シナリオ設計によって制御できる量なのである。
誘導ランプアップと磁束消費 最も標準的な方法は、中央ソレノイド(一次巻線)にプラズマ(二次巻線)を結合させ、ソレノイド電流を変化させてループ電圧を生じさせる誘導方式である。この方式の根本的な制約は、利用できるポロイダル磁束が有限であることだ。ソレノイドが供給できる磁束は装置の設計時に決まり、例えば球状トカマク NSTX-Uのダブルスイングソレノイドは2.1 Wbの磁束能力を持ち、6.5秒のパルス期間にわたり平均約0.33ループボルトを供給できる。この磁束をランプアップでどれだけ消費するかは、フラットトップで誘導的に維持できる時間を直接決める。
磁束消費を抑える鍵は、プラズマの内部インダクタンスl_iと電流立ち上げの終わりのq分布にある。電流がプラズマ中心に偏った「尖った」プロファイルは内部インダクタンスを大きくし、同じ電流に対してより多くの磁束を要求する。逆に、ランプアップ中に外部加熱や電流駆動 で電流分布 を外側に広げ、低い内部インダクタンスとq_min > 2を保ってフラットトップに到達すれば、ソレノイド磁束の節約が可能になる。DEMO 級の炉では、中央ソレノイドの容積は遮蔽体と干渉して経済性を直接圧迫するため、磁束消費の削減はシナリオ研究の中心的な評価指標となっている。特に低アスペクト比の球状トカマクでは、中央ソレノイドの設置空間が本質的に乏しく、研究によればコンパクト炉の想定ではソレノイドが要求電流の3割程度しか供給できない場合があるため、この傾向がより強い。
非誘導・支援ランプアップ 磁束消費を減らし、あるいはソレノイドなしの立ち上げを実現するため、外部電流駆動 を用いたランプアップが幅広く研究されている。用いられる手段は主に三つある。
第一は中性粒子ビーム(NBI )による電流駆動である。接線方向に入射したビームは高速イオンを通じて電流を駆動でき、NSTX-U ではより接線的な第二ビーム系がランプアップ期に相当な電流を駆動しうると予測されている。第二は電子サイクロトロン波 (EC)とその電流駆動(ECCD )であり、局所性が高いためプロファイル制御に適する。球状トカマク QUESTでは、高いトロイダル磁気ミラー 比と垂直磁場を併用したEC波による非誘導ランプアップが実証され、10 keVを超える高エネルギー電子の生成・閉じ込めが、高ポロイダルベータ(約3〜4)のプラズマと内側にポロイダル零点を持つ自然ダイバータ の形成をもたらすことが示された。第三は低域混成波 (LHW)であり、TRIAM-1M での全電流駆動プラズマでのランプアップ実験や、球状トカマク向けの立ち上げ手法の開発が行われてきた。TST-2では、低周波から高周波までの広い帯域の波で約1 kAの初期プラズマを形成でき、その後の電流増加はLH 周波数帯の波で最も効率が良く、60 kWの高周波入力で15 kAまでのランプアップが達成されている。またEAST では、NBIとECを組み合わせた相乗効果のモデル化が行われている。
これらの手法は一般に、プラズマ電流が小さい立ち上げ初期には駆動効率が低いという共通の難しさを持つ。波による駆動効率はプラズマ電流やトロイダル磁場とともに増加する傾向が観測されており、実用規模の電流まで「種」となる初期プラズマをどう作るかが、ソレノイドフリー立ち上げ研究の核心である。
ランプ中のプロファイル制御・MHD・輸送 ランプアップ期の物理的に最も興味深い側面は、電流分布 の履歴がその後の放電を決めることである。電流が外側から内部へ浸透する過程で、プラズマはしばしば逆せん断(中心でqが極小を持つ)配置を経由する。この時期に外部加熱を入れると、q分布の履歴が固定され、フラットトップで内部輸送障壁 や高ベータ定常シナリオへの道が開ける一方、誤った履歴は不安定性の種となる。
MHD の観点では、ランプアップ期は低次の有理面がプラズマ内を連続的に通過する時期であり、ダブルテアリングモード に由来する「リングクラッシュ」的なクラッシュが発生しうる。JT-60SA の初期運転では、q95が10以上と高いにもかかわらず、ランプアップ中にオフアクシス・ソウトゥース様の間欠的な環状クラッシュが観測された。これは逆せん断配置における二つの有理面上の再結合であり、MAST Upgrade でも同種の内部再結合イベントが高性能領域への到達を妨げたことが報告されている。逆せん断下のダブルテアリングモードの非線形シミュレーションでは、複数の有理面上のアイソラン幅が互いに位相をずらしながら成長・減衰を繰り返す様子が示されており、クラッシュの間欠性が複数の有理面の相互作用から生じることが分かる。
fig.9 Intermittent annular crash during the current ramp-up phase in JT-60SA (2026) · CC BY 4.0
Time evolutions of (a) the m/n = 11/1 island width at three q = 11 rational surfaces and (b) safety factor q profile for the high off-axis T_\mathrm{e} peak cases and \eta = 5.0\times10^{-6}. The horizontal dotted lines in (b) shows the positions of the three q = 11 rational surfaces at the initial q profile. The three vertical dashed lines indicate the times at which the helical magnetic flux contours shown in figure 10 were computed.
図は、非線形シミュレーションによる三つのq=11有理面上のm/n=11/1アイソラン幅の時間発展(上)と、対応する安全係数 qプロファイルの時間変化(下)を示す。アイソラン幅が三つの有理面で異なる時刻にピークを迎え、qプロファイルの局所的な平坦化と対応している様子が見て取れる。
輸送の面では、ランプアップ期の乱流挙動は定常状態 とは質的に異なることがDIII-D のITER 類似放電で示されている。低波数密度揺らぎは、低次有理面がプラズマ内に入ってくる時期に一時的に例外的に低いレベルまで抑制され、局所電子温度がその分上昇する。この揺らぎ抑制とq分布・運動学プロファイルの強い相互作用が、ランプアップ期の輸送予測を難しくする一因であり、線形成長率計算だけでは実測の抑制を説明できないことから、予測モデル改良の課題となっている。実際、JET のランプアップ実験のモデル化では、経験的輸送モデルの予測精度が加熱方式(オーミック、中心ICRF 、オフアクシス加熱)に強く依存し、理論ベースモデルでも高入力加熱条件下での乖離が見られるなど、過渡期の輸送予測は依然として検証の対象である。また、WEST のタングステン 壁環境では、ランプアップ期の放射損失による放電の「治癒」(healing)のために窒素 シードが用いられるなど、金属壁装置ではランプアップ期の放射制御も課題となる。さらに、ループ電圧が高い立ち上げ初期は高速電子の加速が起こりやすい時期であり、下域混成波を用いたランプアップ中のランナウェイ損失の研究や、JETにおける電子サイクロトロン放射 干渉計を用いたリアルタイムディスラプション回避など、ランナウェイ電子対策もランプアップ研究の重要な一部である。
ITER・DEMO・球状トカマクへの投影
将来炉では、ランプアップは経済性の観点からフラットトップ時間に比べて十分短くなければならない。ITER のH-mode シナリオやハイブリッドシナリオ では、JET での実験とモデル化を基にランプアップ期の最適化が行われており、特にソウトゥースフリー期間の持続に対する輸送モデルの感度が評価されてきた。DEMO では、ランプアップシナリオと定常運転を一体的にモデル化する研究が進められており、磁束消費の削減が炉設計の制約条件として扱われている。一方で、単純化した解析モデルによる検討では、誘導電場がランナウェイ電子を危険な量で生成しないよう十分低く保たれるべきという制約と合わせ、ファラデーの法則が将来トカマクのランプ時間に課す制約の評価には注意が必要とする議論もあり、大規模シミュレーションコードによる予測と透明な解析モデルの突き合わせが続けられている。
球状トカマク では、前述のとおり中央ソレノイドの能力が本質的に限られるため、非誘導ランプアップは補助的手段ではなく必須の要素技術となる。NSTX-U では、数百kAの初期プラズマを非ソレノイド的立ち上げで用意した上で、高調波ICRF 波とNBI 、場合によってはEC加熱を組み合わせて1 MA級まで非誘導的に電流を立ち上げるシナリオがシミュレーションで検討されており、実験的にはまだMA級での完全非誘導維持が実証されていないことから、実験とモデルの段階的積み重ねが進められている。ランプアップ期の研究は、このように個々の装置の立ち上げ技術を超えて、トカマク炉の経済性と運転信頼性を左右する共通の基盤課題となっている。
電流ランプアップ(Current ramp-up)の研究史 — FusionPapers